DMXは主に舞台照明の制御に使われる通信プロトコルであり、コントローラーのDMX OUT端子から制御される側のDMX IN端子に接続することで通信を行います。舞台照明では沢山のフェーダーがついたミキサーのような機材でDMX信号を出力しますが、DMX信号はMax/MSPからも生成することが可能です。
DMXは関連機器をDMXケーブルで直列接続し、それぞれにチャンネルを割り当てることで一台のコントローラーから複数の機器を同時に制御します。MIDI機器でいうスルーのような方法で複数台の機器を接続していきます。
DMX USB Pro
DMXはキャノン端子を使って信号をやりとりするため、Max/MSPから制御するにはDMX – USBインターフェイスが必要になります。
DMX – USBインターフェイスは様々なメーカーから製品が販売されていますが、ENTTECのDMX USB PROが世界で最も広く使用されているDMX – USBインターフェイスです。日本のYCAMでも様々なプロジェクトでこのENTTECのDMX USB PROが使用されています。
DMX USB PROはDMX INとDMX OUTが一つづつ搭載されていますが、コネクターは5ピンのXLRなので注意が必要です。5ピンのXLRから3ピンのXLRに変換するコネクターは1000円から1500円程度で購入可能です。
DMXの規格では5ピンのXLRケーブルを使用することとなっているのですが、実際には多くの場合3ピン分の信号しか使われていないため、3ピンのAES / EBUケーブルを代用することが可能です。通常のマイクに使われるようなXLRケーブルだと線材の抵抗値が違う関係でうまく動作しないため、必ず110ΩのAES / EBUのデジタルケーブルが必要になります。
また、インアウトの端子の割り振りは、インがオス、アウトがメスとなっており、通常のマイクケーブルとは逆になっているところが特徴です。
ENTTEC DMX USB PRO
http://www.enttec.com/index.php?main_menu=Products&pn=70304&show=description&name=dmxusbpro
Max/MSPのdmxusbproオブジェクト
Max/MSPでDMX信号を生成するためにはサードパーティーのdmxusbproオブジェクトが必要となります。このオブジェクトは有料ですが、無料版でも2chまでならDMX信号を生成することができます。
dmxusbpro – DMX 512 external for Max
http://www.nullmedium.de/dev/dmxusbpro/
また、ENTTECを動作させるためにVCPもインストールする必要があります。
DMXでは多くの場合、最大チャンネル数は512、値は0から255を出力します。これはMIDIよりもやや分解能が高いので、照明をフェードイン、フェードアウトさせるときなどはスムーズに明るさを変化させることができます。dmxusbproオブジェクトでは<チャンネル><値>という二つの数値から成るリストをインレットに送るだけで簡単にDMX信号を送信することができます。
例えばELATIONのDP-415のような調光ディマーにこの信号を送った場合、接続された照明機器は0で消灯し、255で最大の明るさを出力します。しかし白熱電球の場合特性上、ストロボやLED照明を制御するのとは異なり、フィラメントが反応するまでのタイムラグなどがあり、高速な点滅などには限度が出てきます。また、ディマーで255か0、つまりオンかオフ以外の信号を受け付けないインバーター付きの照明機器などもあり、注意が必要です。
音楽作品やサウンドインスタレーション作品にDMXを使う利点はArduino同様、電子音、シンセサイザーといった制約を超えて楽器や物体をコンピューターから演奏させられる部分が大きいでしょう。ArduinoはLEDや小型サーボモーターなど小さな電力で動くものを制御させることにしばしば利用されていますが、DMXは大型機器の電源のオンオフなどに利用できるため、使い分けるのも良いでしょう。
応用事例
山川冬樹氏の例
DMXとMax/MSPを組み合わせてコンピューターから様々な電子機器を制御するような芸術作品は少なくありません。DMXではなくMIDI信号を利用するCyberpakを使用しているアーティストとしては、山川冬樹氏が挙げられます。
山川氏のパフォーマンスでは、心臓の鼓動を光の明滅に変換していますが、身体に貼付けたマイクから入力された信号がMax/MSPに入力されCyberpakに接続された電球が光る仕組みになっています。
大友良英氏の例
大友氏の作品ではしばしばターンテーブルやモーター、ソレノイドのような機器が使用されますが、これらの制御にもDMXが利用されています。
大友良英、飴屋法水の共作インスタレーションである「Smile」ではさまざまな場所で40台以上の機器がDMX制御されています。写真はピアノ線をコンピュータ制御で振動させ、アルゴリズミックに演奏させている例です。