レコーディングスタジオに必ずいくつも転がっている、エンジニアの標準ヘッドフォンと言えば赤ラインのSONYのCD900STです。
いわゆる音楽鑑賞用のヘッドフォンとは異なり、スタジオでマイクから入ってくる音やコンピューターで合成した音を正確に把握するために設計されたヘッドフォンであるため、オーディオマニアからは聴き疲れる、高音が刺さるなどの評価をされることがありますが
このヘッドフォンは高解像度を求めているために超音波の周波数帯の音も再生するほど高音の音響特性が良い裏返しでもあります。
歪んだか歪んでないかのぎりぎりの境界など、CD900STで確認しなければわからない音があります。
それと、楽器の演奏時に演奏のニュアンスが掴みやすいので、レコーディングのモニターにはやはり重宝します。
型名:MDR-CD900ST
形式:密閉ダイナミック型
ドライバーユニット:40mm、ドーム型(CCAW採用)
最大入力:1,000mW
インピーダンス:63Ω
音圧感度:106dB/mW
再生周波数帯域:5~30,000Hz
コード長:2.5m
コードの太さ:Φ4.0mm
プラグ:ステレオ標準プラグ
質量:約200g(コード含まず)
希望小売価格:18,900(税込)
基本的にはスピーカーを使ってミックスやレコーディングを行うエンジニアやコンポーザー、アレンジャーがヘッドフォンに求める性能は、プチノイズ、クリックノイズの混入チェック、サウンドが歪んでいないかのチェック等です。
演奏を行うミュージシャンは自分の演奏や声をレコーディング時にはヘッドフォンを通してモニタリングします。
つまり、ヘッドフォンでの音質の劣化やクセ漬けはその後の編集作業の邪魔になってしまいます。
測定器並みの性能が無ければ本来意図していない音の混入に気付くことができないため、音を作る人用のヘッドフォンには純粋さが求められます。
また、CD900STは耐入力(最大入力1000mW)が大きいため、大音量を突っ込んでも音が割れたりしません。
様々な音が飛び交うレコーディングスタジオでは音楽鑑賞では考えられないほどの音量でモニタリングを行うこともあるため、耐入力の大きさは重要です。
そういった条件をこの値段では考えられないくらいクリアしているのがCD900STです。
Carl Zeiss Jena Flektogon25mmF4
音楽を心地よく聴きたいといった一般のニーズとは異なるニーズに答えた製品がCD900STであり、リスナー目線とはやや異なるかもしれませんが、ほぼすべてのレコーディングスタジオにCD900STはありますし、より制作者側に近い感覚で音楽を鑑賞するというのも昨今のPCオーディオの流れに近いのではないでしょうか。
最近はRMEのFirefaceをリスニング用途で導入する例も非常に多いそうです。
音に関する何らかの創作活動をする人で、ヘッドフォンはどれを選べば良いかわからない人はまずCD900STを購入すれば外すことはありません。現場で最も多く使われているヘッドフォンこそCD900STであり、この音を基準に音を考える人は多いです。
実際に自分が作った音源が900STでチェックされることも多いので、プレゼンテーション時に実際に相手にどう聴こえるかということを意識すると900STでも外さない音作りというのも重要になってきます。
CD900STは業務用製品のため、製品の保証書などはつかず、すべて有料の修理になるのですが、サウンドハウスやeイヤホンなどでバラバラにすべてのパーツを購入することができます。
(全てのパーツをバラで購入して自分で組み上げることもできますが、2万円を超えるため製品より割高になります。)
つまり、故障してもその箇所を修理していけば末永く使っていくことができます。
この点が、断線修理すら難しい市販のヘッドフォンとは異なるところです。
eイヤホンという店は東京では秋葉原にあるのですが、CD900ST含め多くの製品が試聴できる上に中古などの扱いもあっておすすめです。
CD900STなら1万円せずに中古があるので、ドライバー等交換していけばきちんと新品同様の音までもっていけるので、ヘッドフォンに予算がかけられない場合はおすすめです。1万円せずにリファレンスの定番ヘッドフォンが手に入るというのは素晴らしいことだと思います。
CD900STはソニーとフィリップスによるCDの発明以降、ヘッドフォンの品質を見直すこととなり1985年から市販されていたCD900というヘッドフォンが元になっています。そんな時代に生まれた製品のため、赤字でfor DIGITALと強調されたシールがついています。
信濃町のCBSソニースタジオが業務用に改良し、その後1989年にソニーミュージックコミュニケーションズからソニー以外のスタジオにも発売された経緯があります。なので、改良前のCD900と改良後のCD900STは音質が大きく異なります。
ソニーミュージックコミュニケーションズは同じソニーでも電化製品を作る部門ではなく、音楽、映像、ゲーム等のソフトウェアを扱っているところなので、ヘッドフォンの販売を行うのは異例です。
CD900STも一般的な工場とは違う少々特殊な環境で製造されているらしく、その事情で近々生産が終わるという噂もちらほら耳にするようになりました。
YAMAHAのNS10Mも同じですが、エンジニアはCD900の音を基準に音を判断してきた歴史があり、早々簡単にリファレンスを変更することはできないため、今後もCD900STは生産が停止されても使われ続けるのだと思います。
http://www.smci.jp/headphones/cd900st/index.html
CD900STの修理改造はメイクアップカンパニーが一括で請け負っています。
http://www.makeup-c.com/900stinfo/index.html
ここではケーブル詰めやプラグをミニプラグにする改造などを行ってくれます。
僕がヘッドフォンを使う場面というと映像等の録音音声のゴミ取り等の整音や細かい音作り、例えばスネアやバスドラムの音自体を音響合成して作ったり、Max/MSPでプログラムを通過させてサウンドファイルを処理して新たな音響を作り出すときなどはヘッドフォンで作業をします。
主に素材作りがヘッドフォンです。そのために、普段から音楽もCD900STでリスニングし音色の感じを肌身離さないようにしています。
それと、コンピューターを使って作曲するときもヘッドフォンでやります。
ミックスでは基本的にヘッドフォンは使いません。
よくヘッドフォンでミックスする人がいますが、左右がきっちり分離して聴こえるヘッドフォンでミックスするのは難しいです。モニタースピーカーで聴いてみると偏った音作りになりがちです。
あくまでミックスにおいてのヘッドフォンは最終確認です。
CD900STは赤いラベルが貼ってありますが、青ラベルのMDR-7506というスタジオ用ヘッドフォンもあります。
SONY MDR-7506についての記事
http://akihikomatsumoto.com/blog/?p=47
CD900STはよく低音が控えめなどと言われますが、そんなことはありません。(とは言っても、beatsのように派手な低音が出るリスニングヘッドフォンとは根本的に違います)
低音が感じにくい原因はほとんどの場合頭の形がヘッドフォンに合っていないため、ヘッドフォンのイヤーパッドの側圧が緩いためではないでしょうか。
よくMDR-7506は低音がCD900STより強いなどと言われますが、本来のCD900STはきっちり低音が出ています。
これをきっちり耳に伝えるために僕はCD900STの金属のスライダーをMDR-7506用のものに交換しています。こうすることで折りたたみが可能になります。
折りたたみが可能になるだけでなく、実は側圧がかなりあがるのでイヤーパッドがきっちり耳に密着するようになり音漏れも少なくなり低音のロスも減る結果、かなり低音が感じられるようになります。
CD900STも電気的な改造無しに、金具を交換するだけでMDR-7506と同じレベルの低音が出るようになります。
全く同じではありませんが、下限はむしろCD900STのほうがでていて、その少し上のあたりが膨らんでいるバージョンがMDR-7506かなと思います。
ギターを弾く人のイメージとしてはCD900STがシングルコイルでMDR-7506がハムバッカーの音のような感じです。
僕の場合極力デッドで音が近いほうが好みなので、MDR-7506はイヤーパッドをCD900STと同じものに改造していて、側圧をあげるためにCD900STも折りたたみに改造しているため両者の違いはスピーカーユニットの部分だけとなり、その差も比較しやすいですのですが、イメージとしては、ドンシャリな7506とフラットなCD900STという感じで、レンジは7506のほうがコンパクトな感じです。それも極端に違うわけではなく、ほんの僅かな差です。
よくCD900STのレビューでは低音が出ると言っている人がいたりスカスカと言っている人がいるのは、聴く人の頭の大きさでヘッドフォンの密着具合が変わってしまうため、違うように音が聴こえてしまうからなのではないでしょうか。
折りたたみに改造すれば少なくとも7506に低音が劣るということは無くなると思います。
この改造をすることでCD900STとMDR-7506は実はかなり音が近いことがわかると思います。CD900STもMDR-7506もスピーカー部以外の物理的要因でかなり音色の差が出てきます。
超高周波はCD900STのほうがMDR-7506より出るため波形の輪郭は再現性が高くリアルです。ナイキスト周波数が22.05KHzである44.1KHzのCDクオリティーのデジタル音源を鳴らしてもあまりわからないかもしれませんが、CD900STは30KHzまで上が出るためもっと音響特性が良い素材を突っ込んだときに差が顕著です。
特に破裂音系のプチっという独特のアタック音はCD900STで無ければ出ない音です。MDR-7506では角がとれて丸くなってしまい、アクセントが感じられないことがあります。
他にもベースの輪郭に相当する高域がMDR-7506ではだめで、CD900STでしか聞こえない場合があります。
しかし、折りたたみできるようにスライダーを改造することでMDR-7506とCD900STは限りなく近い音色になります。特に僕のMDR-7506はイヤーパッドをCD900ST用のものにしているため、フィルター効果も少なく耳との密着度が高くなっているため、両者が凄く似ています。音に関係する物理的な部分はすべて共通なのでドライバーの型番の違いだけです。
側圧を弱めれば本来のCD900STの音なのですが、耳に密着するだけで低音が占める割合が増えるためサウンドのバランスはかなり変わります。
これが慣れ親しんだCD900STの音とかなり違うため気持ち悪いという人もいると思います。
リスニング用にきっちり低音を聴きたいと考えている人にもおすすめできる改造です。
プラグもオヤイデのミニプラグに改造しているのですが、こうすることでラップトップマシンでちょっとした作業をしたい場合にも素早く接続できます。
SONY SEL50f1.8
(MDR-7506にはハウジングに金属のリングは無い)
SONY CD900ST, MDR-7506関連パーツ型番リスト
X-2113-101-1 (MDR-7506用スライダーL)
X-2113-102-1 (MDR-7506用スライダーR)
2-115-671-01 (CD900ST用イヤーハンガーL)
2-115-672-01 (CD900ST用イヤーハンガーR)
2-115-669-01 (CD900ST用ハンガー蓋L)
2-115-670-01 (CD900ST用ハンガー蓋L)
7-685-232-14 (CD900ST用ハンガ蓋ネジ)
1-542-492-31 (CD900ST用ドライバー)
1-542-492-11 (MDR-7506用ドライバー)
2-115-695-01 (CD900ST用イヤーパッド)
2-115-668-03 (MDR-7506用イヤーパッド)
1-574-171-13 (CD900ST用ケーブル)
2-113-149-01 (ウレタンリング)
X-2113-142-2 (CD900ST用ヘッドバンド)
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スタジオヘッドフォン SONY MDR-Z1000 の海外版 MDR-7520の音
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タイの洪水で絶滅危機、SONY 業務用ヘッドホン MDR-7506
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スピーカー、ヘッドフォンのエイジングのための音楽「White Noise Field」
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