SONYの業務用スタジオモニターヘッドフォンMDR-7506の紹介です。
なんでもタイの洪水で壊滅的な被害をうけている機種で、洪水以降は入荷されていません。
国内に出回っている在庫を掘らなければ今は入手できませんし、今後廃盤になる可能性もあるそうです。
(2012年の11月頃からようやく販売が再開された模様です)
アメリカではMDR-7506のほうがCD900STよりも広くスタジオで使用されているそうです。CD900STは音楽業界で広く使われているのに対して、MDR-7506は映像機材として認知されているケースが多いと思われます。
MDR-7506の主な仕様
密閉ダイナミック型:密閉ダイナミック型
ドライバーユニット:口径40mm、ドーム型
音圧感度:106dB/mW
再生周波数帯域:10-20,000Hz
インピーダンス:63Ω(1kHz)
最大入力:1,000mW(IEC)
コード:約1.2m(伸長時:約3m)
入力プラグ:金メッキステレオ2ウェイプラグ
レコーディングスタジオで定番のヘッドフォンと言えばSONYのCD900STだと思います。
CD900STについてはこちらの記事に詳しくレビューしました。
http://akihikomatsumoto.com/blog/?p=456
スタジオ用のモニターヘッドフォンは、アーティストやエンジニアが演奏や音作りをきっちりモニターするための機材であり、リスニング用のように音楽をいい音で聴くという用途とは違います。
モニターヘッドフォンは周波数レンジが広く、とにかく解像度が高く、演奏のアラやノイズの混入に徹底的に注意を払いながらレコーディングを進めていくことができます。
演奏以外でも音を作る人であれば、フィールドレコーディングした自然音素材なども豊富なスペクトルを含むため、こういった解像度の高いヘッドフォンでのモニタリングが必要な場面が出てくると思います。
リスニング用のイアフォンなどでは角がつぶれた音になってしまい、実は混入しているノイズを聞き取れなかったり、音の質感まで再現できていない場合が多く、こういった解像度の高い機材や大音量でスピーカーで鳴らしたときに、意図していない音になってしまうことは多々あると思います。
Max/MSPなんかを使って既存のシンセサイザーとは別のアプローチで音作りをしていると、強烈な低音が発生することもしばしばあって、それを忠実にスピーカーからモニタリングするのはなかなか厳しいので、カナル型のイヤフォンなんかで確認したりヘッドフォンで確認することになるのですが
カナル型はまだまだ音質的に限界があり、ヘッドフォンスタイルには遠く及ばない解像度だと思います。
どんなに高性能なものでも解像度に関係してくる音の角がとれてしまい、高周波を多く含むアタック音などで顕著にヘッドフォンとの差が出てきます。
MDR-7506はしばしば低音などが不自然で脚色されており、原音に忠実ではないと批判されたりしますが、いちがいにそうとも言えない良品です。
確かに、CD900STよりは低音が出ます。CD900STがフラットだとしたらMDR-7506はフラットでは無いです。SONYらしいエッジのきいたきらめくようなハイが出ていて、低音も豊富です。
MDR-7506はCD900STと同じくSONYっぽい音なのですが、ドンシャリでSONYのオーディオ機器っぽい音です。
再生帯域はCD900STの30KHzに対してMDR-7506上限が20KHzなので、CD900STよりも10KHzほど狭いのですが解像度は非常に高いです。
ちなみにCDは44.1KHzのサンプリング周波数を持つ規格であるため、原理上22.05KHzまでしか上は収めることができません。これ以上の周波数を突っ込むと折り返しといって、原音とは関係が無い倍音が出てきてしまいます。
このあたりがデジタルオーディオのデメリットです。アナログは上限という概念はありません。
機材や環境が許す限りどれほどの高周波でも含めることが可能です。
ちなみに僕はMDR-7506のイヤーパッドをCD900用のものと交換しています。サイズが若干違うのですが、きちんとはまります。
このほうがヘッドフォン内部のスピーカーユニットと耳との距離が近くなり、音が良く聴こえるようになります。
これはよくある改造で、イヤーパッドは秋葉原のヘッドフォン、イアフォン専門店であるeイヤホンでも購入可能です。
ヘッドフォンのドライバーと耳との物理的な距離は離れる程低音が無くなります。
密着していることが理想的なので、低音に関してはカナル型のイアフォンのほうが再生能力は高い場合があります。
MDR-7506やCD900STのような業務用のヘッドフォンはパーツをバラバラに購入可能で、断線などもケーブルだけ交換することができるので修理しながら末永く使っていけるメリットがあります。
同じSONYの定番スタジオモニターヘッドフォンであるCD900STは音量を出すか、ヘッドバンドをキツくして耳に密着させなければ低音が弱まってしまいます。
機材の特性だけでなく、人間の耳の仕組みとしてラウドネス曲線というものがあります。
小さい音で聴く場合は大きい音で聴くよりも低音は少なく聴こえてしまうのです。
なので、常に小さめな音でモニタリングする場合はフラットよりも若干低音が持ち上がっているほうが聴感上のフラットに近い音になります。
MDR-7506は制作環境として、イアーパッドの密閉度合いも抜群で外部の音を遮断出来るため、作業に集中できます。
きちんとチューニングしたCD900STとMDR-7506は性能や音質は微々たる差になります。気がつけばCD900STよりMDR-7506がヘビーユースになっています。
もちろん、ヘッドフォンでできることとスピーカーでできることは異なるので、スピーカーがいらないなんてことにはなりませんが。
MDR-7506はリスニング用のヘッドフォンではなく、あくまでレコーディング現場でミュージシャンが使う業務用なので、息づかいや演奏の粗まできっちり聞こえます。ギターのアンプが毛羽立つような質感まできっちりモニタリングできます。特にエレキギターの質感に関してはMDR-7506のほうがCD900STよりも再現性が高く、音色を少し変えただけでも違いをモニタリングしやすいです。
かつてはそういった良い音とは別のベクトルを向いたスタジオ用の音は、リスナーは聞きたく無い音とされていて、快適に音楽を楽しみたいコンシュマー向けの製品ではそこまでの解像度にならないように設計されていたのですが、では、リスニングとは?という根本的な問題を考えたいです。
いい音を鑑賞するだけが音楽の聴き方ではないはずです。美しさだけが芸術ではない。
作者の意図をできるだけフィルターや偏見を持たずに耳に届けるというのも大事なことです。
CD900STは個人的にはリスニング用途に使う場合、側圧が緩いため低音の少なさが気になるのですがMDR-7506はそんなことはありません。CD900STもスライダーを折りたたみ式に改造することでこれは改善します。
ハイはレンジの上限がCD900STより低いものの、全体としてCD900STよりは持ち上がっている感じで、ボーカリストの破擦音などでは息づかいまで聴こえてくるほどです。
そういった意味でやはりフラットではないのですが、フラットでないが故に気付ける音というものもあります。
MDR-7506は歌ものからクラブミュージック、現代音楽まであらゆるタイプの音楽鑑賞に向いていますし、カールコードとステレオミニプラグが標準なので、iPhoneなどにもそのまま繋げます。
CD900STはフォンプラグなのでiPhoneなどに繋ぐためには変換か改造が必要です。
レコーディングスタジオ以外だと、映像関係の人はMDR-7506を使うケースがあります。音声収録やMAなどではCD900STよりもMDR-7506のほうが低音を拾うため、使いやすいです。
レコーディングスタジオではない屋外での音声収録などでは電子機器が発する低周波などが録音にどれくらい影響しているのかなどがモニタリングできる必要があります。
逆に、音の質感のような部分に影響してくる超高周波のモニタリングは現場では不要だったりします。
僕も音声収録の仕事ではMDR-7506を使います。
極端な例ではDJ用ヘッドフォンを音声収録で使う人もいるくらい低周波ノイズはシビアです。
音楽家でなくても観賞用としてもこういった業務用の高解像度なヘッドフォンは面白いと思います。リスニング用途でしたらMDR-7506のほうが良いと思います。
今まで聴こえなかった音が聴こえるようになります。
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