ミキシングを学びたい人のための教科書/理論書


方々でミキシングを学ぶにはどういう本を使えばいいですかという質問を受けます。
私はレコーディングスタジオでアシスタントエンジニアの経験があるので、様々な音楽ジャンルのプロのエンジニアからいろいろな技を目で見て吸収しましたが、ビギナーにはそういうことは難しいでしょうし、経験からではなく歴史や理論方面から学びたいというアプローチもあるでしょう。

ただ、ミキシングというか、音源の方向性は時代とともに急速に変化するものです。一度勉強したら終わりということではないので、常に先端の事情を追い続ける必要が生じます。

ですが、幾つかの基本的事項は普遍的に利用できるのでそういった知識を中心につけていき、味付けとして先端の機材の操作法、流行の音楽のエンジニアリングなどを学べばいいと思います。そういったものは理論書というより使い捨てられる雑誌などのほうが効果的な記事が多いです。

さて、では、ミキシングに関して幾つか普遍的に利用できる基本的理論の話になりますが、これは音響心理学、音響学から多くの知識を得る事が出来ます。
例えば、これ

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アメリカで広く使われている音響の教科書ですが、様々な音響現象に対して人の聴覚はどのように反応しているのかを学ぶ事が可能です。例えば、マスキング効果、位相、ラウドネス曲線などエンジニアが感覚的に考えているであろうことがらが、きちんと体系化され理論として説明されています。
ミキシングしていて、不自然に感じる音の理由を言葉で説明できるようになります。基礎的な理論を知るということはトライアルエラーで時間をかけてミキシングしていくよりも圧倒的に素早く目的の音に到達できるようになります。

レコーディングスタジオではしばしば不自然なハーモニーを修正するために、アレンジ段階からやり直す場面にも遭遇しますが、この点においても日本のエンジニアは専門学校卒が多く、音響や音楽理論、オーケストレーションの正統な教育を受けていないケースが多いため、非理論的に鍵盤を抑えて耳で音を聞きながらああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返します。
対位法を勉強していれば不自然な旋律、際立ちすぎたハーモニーの理由が簡単に説明できるのに、理由がわからず何時間も鍵盤と格闘しているエンジニアを目撃したことがありますが、生産性が高いとは言えないでしょう。もちろん苦労したぶん、やり遂げた後の達成感はあるでしょうがアマチュアのアプローチの域を脱しないと思います。

ミキシングの際に身につけておくと便利な体系的学問はオーケストレーションです。伝統的な楽器を組み合せる際に、ダイナミクス、パンニングなど、どのようなことに気をつけて何十人もの演奏を一つの音楽にまとめるかという基礎的なことを学ぶ事ができます。
これはマルチトラックレコーディングやMIDIの打ち込みの時代以降のDAWのミキシングに他ならない技術です。アナログかデジタルかの違いであって、決して別物ではありません。もちろん、テクノやハウスミュージックであったとしても生楽器のサンプリングを使う事はあるでしょう。それらの音色をどのように組み合せていけば自然な響きを出すことができるのかはオーケストレーションから学ぶ事ができます。
このような普遍的な基礎技術、理論を身につけておけば新しい音楽ジャンルが登場した際にもすぐに応用がきくでしょう。

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その他有効な文献としてはペリークックの音楽認知の本が役立つでしょう。
これは人が音楽に対してどのような意味付けをしているのか、脳がどのような働きをしているのか、音楽と記憶の関係などを学ぶことができます。
自分が作った音楽が一般的にどう聞かれるのかを自分で把握することはとても大事なことですが、多くの音楽家がそのステージまで達する事ができません。CDの売り上げや世間の反応を見なければその作品がどう聞かれているのかがわからなかったりするものですが、音楽認知を勉強することで少しでもその先を予想することが可能になります。

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日本語ではこの手の文献は皆無に等しく、そこがまた日本の音楽家、エンジニアのレベルがあがらない原因の一つにもなっていますが、近年いくつかの良書が日本語訳されてきています。カーティスローズのコンピューターミュージックチュートリアルの日本語版も音響学の基礎理論からデジタル信号処理まで深い解説がある理論書です。

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