タイトルを見て、楽譜をリアルタイムに表示?
そんなの当たり前では?と思うかもしれませんが、ここで紹介するMaxのエクスターナルオブジェクトは単なる楽譜浄書ソフトではありません。
Max/MSPでリアルタイムに生成される音符をその場で表示することができます。
例えばIRCAMの作曲家がやるようにFM理論を作曲に応用し、ある音符に対して理論的に変調をかけて側帯波を発生させ、その側帯波の周波数を音符として楽譜に戻して表示してやるといったことがリアルタイムに実行できます。
MIDIコントローラでツマミを回すと楽譜が変化するような使いかたも可能です。
音を鳴らしながら、ある部分だけスイッチを押して和音を転回形にしたり、メロディーの音列はそのままでリズム構造だけ逆行させたり、arduino等でセンサーと組み合せれば、外部とのインタラクションで生成される音符を実際の奏者に演奏させるといったことも可能になります。初見でどこまで演奏できるのかという限界こそありますが。
Max/MSPでシンボリックなアルゴリズミックコンポジションをやっているユーザーはこれまでは楽譜の表示に苦労していたと思います。
scoreオブジェクトはあるものの、瞬間の音のみが表示可能で小節を表示することは不可能であったため、生成された音符をあとから振り返ってみたり、構造的に眺めたりすることが不可能でした。
僕も昔はMaxで生成する音の情報を一旦MIDIで書き出して楽譜に清書したり、Finaleにコンバートしたりしてましたが
どうにもリアルタイムに一連の動作ができない関係上トライアル&エラーによる作曲が難しい面がありました。
BachというMax/MSPのライブラリーはその弱点を補完し、Openmusicにも匹敵するスコア表示機能を備えています。(フリーウェア)
“bach: automated composer’s helper”
http://www.bachproject.net/bach/home_page.html
これは一つのソフトというほど多機能で、きちんとチュートリアルをやらないと操作が難しいのですが、楽譜として表示されることで生成されるハーモニーがわかったり、より理論的な考察がしやすかったりするので、こういう環境がなければ作りにくい音楽も出てくるのだと思います。
もちろん作曲だけでなく、シンボリックな情報のヴィジュアライズ環境としての楽譜は、分析やデータ解析にも応用しやすいでしょう。
昨今のコンピュータミュージシャンであれば、作曲に楽譜なんていらない、音さえきちんと確認できれば良いと考える人もいるでしょうが、ドレミの音符を使って音を構成する場合、何かおかしい響きになった場合に原因を突き止めるために楽譜は便利だったりします。
どの音程がぶつかっているから音が気持ち悪いなどの予想が立てられるからです。
Openmusicも便利ですがリアルタイムではないので、インタラクティブな要素があるサウンド作品の制作などには使えません。
Max/MSP上でリアルタイムに走るということは大きいと思います。
伝統とテクノロジーを結びつけるツールとしても可能性を感じます。
数学的なプロセスで作曲をしている人はぜひダウンロードしてみては。
The Algorithmic Composer (Computer Music and Digital Audio Series) David Cope A-R Editions 2000-05 |