普段コンピュータ上でのプログラミングを駆使して音楽、音響、またはソフトシンセやエフェクターなりを作っていて、デジタルの作品制作については大学院までみっちり理論的にも哲学的にも勉強したので、デジタル環境の特性についてはある程度体感として理解しているのですが、やはり耳にする音のいくつかはデジタル環境で制作するのはとても無理というものがあります。
例えばエレキギターのピッキングのダイナミックな音色の変化はMIDIでは再現できませんし、ギターのアナログのエフェクターの特性もいくつかはデジタルでモデリングするのが非常に困難です。
他には発振してしまうファズ。
発振系のアナログディレイなどは比較的簡単にシミュレートできるのですが、ファズの発振の仕組みは電流や電圧、インピーダンスなどの関係が密接に繋がっているので、単にループするアルゴリズムを作るだけでは実現できません。
しかもデジタル環境での最小限の1サンプル単位でフィードバックは波形同士が正確にフィードバックするため干渉によってフィルター効果が生じます。
というより、デジタルフィルターの原理そのものだったりします。
発振ファズはデジタルで作ろうとすると、それこそトランジスタなどの半導体の特性から物理モデリングしなければなりませんし、ちょっとした歪みでもかなり大掛かりなプログラミングが必要になるので、逆にアナログで作ってしまった方が早かったりします。
デジタルでアナログっぽさを出すことはできないことでは無いのですが、無駄に大規模になってしまったり、よほどデジタルでやるというコンセプチュアルなこだわりが無い限りシミュレーションではなくアナログでやったほうが楽です。
動画は現在開発中の発振系歪みエフェクターですが、これもある意味デジタルのグリッチ的な思想で作っています。
意図的にエラーがおきるように回路を組んでいます。
音はギターアンプを通っているのでアナログですが仕組み的には結構デジタルだったりします。
ギターの音がギターっぽくなる最大の要因はギターアンプですね。
ギタリストはギターアンプから解放されれば周波数的にももっと色々な表現ができるのですが、ギタリストにとってハイファイや解像度の高い音はあまり好まれず、ヴィンテージ思考が強いのでアンプを通さずにラインだけで音作りをするギタリストはなかなか現れないと思います。
これは1950年代後半からのロックの記憶とも密接に繋がりがあると思います。
要はロックではない音というのがエレキギターの世界では邪道に考えられる文化があります。
抵抗やコンデンサーの値を追い込むための環境としてはarduinoユーザーにはおなじみのブレッドボードがおすすめです。
いちいちハンダ付けしながら部品を交換していたらいつまでたっても理想の音にはたどりつけませんが、ブレッドボードならコーディング感覚でいろいろな回路を組めます。
要は実験がしやすいです。
逆に、未知のエフェクターを開発するにはこの環境がなければかなり非効率的にならざるを得ないと思います。
昨今はエフェクターを自作するギタリストも増えましたが、よほどのことがないかぎりパーツが壊れたりはしないので、ブレッドボードで散々実験してみるのが面白いと思います。
様々なエフェクターを駆使して音作りをする前に、素子を駆使してエフェクターを作ってしまえば案外理想の音にたどり着くのは早いかもしれません。
実際にぱぱっとブレッドボードで部品を差し替えながら音を試聴することで、コンデンサの音質の違いなんかもABテストのように確認していけます。
特にスペックだけでは見えてこないのが音のスピードです。
コンデンサでもセラミックかフィルムかで音のエンヴェロープが変わります。
それが最終的に粘り気やエグさにつながってくるので、部品は理論ではなく、耳で選定したほうがいいです。
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