Recording / 録音とは
Recording(録音)とは、電気的、機械的に音波を記録、再生する技術のことを言います。音楽の世界で活版印刷術以来最大の技術革命というと録音技術があげられます。
作曲家、演奏家、聴衆はこの技術に影響を受け、それ以前の音楽のスタイルやライフスタイル、アイデアを激変させました。録音を通じてアジア、アフリカなどの各地の民族音楽を一カ所で体験したり、西洋音楽の歴史全体を振り返ることも簡単になっています。そしてディジタル録音の技術はもはや物理的な限界を越え、無限のコピーを可能にし、インターネットを通じてデータとして音楽を配信することが可能になりました。
アナログ録音の歴史
アナログ録音の歴史は一般的にトーマスエジソン(Thomas Edison)がニュージャージー州にあった自身の研究所で1877年、円柱型アナログレコードの発明をしたことから始まります。
それ以前にもトレースによって再現可能な音楽のための装置は存在しており、15世紀のバレルオルガン、1598年のmusical clocks、1805年のバレルピアノ、1815年のmusical boxesなどがありましたがこれらは全てあらかじめ記録してある音楽を再生するための装置であり、現実音を録音することはエジソンの発明以前は不可能でした。
しかしエジソンの発明は円筒にスズ箔を巻いて音の振動を記録する装置であり、後に円筒にワックスを塗ったろう管を使用したフォノグラムも発表していますが、量産には不向きでした。
1887年にドイツ生まれのアメリカの発明家エミリーベルリナー(Emile Berliner)が円盤形ディスクを使って音溝に横方向に音波を記録する"横振幅方式"を発明し写真製版の技術を応用した"プレス法"によってレコードを大量生産することが可能になりました。エジソンはこれに対抗し、"縦振幅方式"によるレコードを発表しますがSPレコードの発表に伴い歪みの少ない"横振幅方式"が採用され、エジソンの方式は姿を消すことになります。
マイクロフォンの歴史
19世紀の録音はラッパの形状をしたマイクロフォンに音を吹き込む方式で行われ、音波は機械的な振幅に変換された後、円盤上に溝が記録されました。当時の録音周波数帯域は300Hzから3KHzでありダイナミックレンジは20から30dB程度で、録音時の音量調整にも非常に高度な技術者の能力が必要とされるものでした。
1906年ドゥ・フォレスト(L De Forest)が三極真空管を発明し、音波を一旦電気信号に変換することによって音量を自由に増大、減衰させることが可能になり録音、再生技術が飛躍的に向上しました。
アナログ録音技術年表
- 1887年:Emile BerlinerがGramophoneというフラットなディスクを利用して録音を行う装置を発明
- 1894年:Valdemar Poulsenによる磁気レコーダ、テレグラフォンの発明
- 1906年:De Forestによる三極真空管の発明
- 1920年代:電気マイクロフォンが開発される
- 1925年:RCAがスピーカーを利用した電気式蓄音機を発表
- 1933年:ベル研究所が電話回線を利用した3チャンネルの試聴実験を行う
- 1940年代:アメリカのギタリストLes Paulが世界初の多重録音
- 1946年:コロンビアレコードが33-1/3回転のLP(Long-playing record)を開発(片面30分の録音が可能)
- 1950年代:Hi-Fiステレオレコードが登場
- 1963年:Philips社がコンパクトカセットを開発
- 1969年:OlympasがMicrocassetteを発表
- 1976年:SONYがElcasetを発表
初期のアナログ録音による歴史的音源
http://www.firstsounds.org/sounds/index.php
デジタル録音の歴史
デジタル録音の始まりは1937年Alec ReevesがPCM(パルス符号変調)を発明したところから始まります。この変調はアナログの音声信号を2進数のパルス列に変換する技術で、現在でも広く使われている技術です。
初期のデジタルレコーダーが出現した頃のアナログ録音機材は音質が不安定であり、レベルチェックのための1KHzのサイントーンを録音し再生するとワウフラッターによって変調ノイズが発生し、済んだサイントーンの音を再生することは出来ませんでした。
テープレスレコーディング
コンピュータの発達と普及、記録媒体の大容量化によって90年代後半からテープレスレコーディングの移行が始まっています。現在のレコーディングでは99%のプロジェクトがProtoolsによるデジタルハードディスクレコーディングで行われています。それまでとは全く異なるオペレーションで音楽の編集作業が行われるため、エンジニアの若年齢化が進んでおり、アナログ録音機器の技術者も高齢化しているため急激にテープ録音、編集作業を行えるアナログ技術者が姿を消しつつあります。
デジタルハードディスクレコーディングの特徴は
- ランダムアクセスによって瞬時に希望箇所に再生位置をロケートできる
- クロスフェードを含めた非破壊波形編集が行える
- オートメーションが楽にプログラミングできる
- フレームの変更が可能
- 劣化がない
これらのレコーダーの欠点はHDなどの外部記録装置を別途必要とする点と、他社との互換性がない点です。また、バックアップの失敗による安易なミスも発生しがちで、出荷直前の音源データが消えてしまう事故もまれに発生しています。
デジタル録音技術年表
- 1937年:Alec ReevesがPCMを発明
- 1943年:AT&T社のベル研究所が音声伝達システムSIGSALYを開発
- 1957年:AT&T社のベル研究所Max Mathewsがコンピュータを通じたデジタル録音システムを開発
- 1967年:世界で最初のデジタルレコーダーが出現
- 1979年:SONYとPhilipsが共同でCD(コンパクトディスク)を発明
- 1979年:SONYがWalkmanを発表
- 1982年:最初のCD製品が発売される。
- 1982年:New England Digital社が初の商用デジタルレコーディングシステムSynclavierを発表
- 1987年:SONYがDATを発表
- 1988年:SONYがデジタルマルチトラックレコーダーPCM-3348を発表
- 1991年:Digidisign社からDitigal Audio Workstation Protools1.0が発表される。
- 1991年:SONYがMiniDisc(MD)を発表
- 1991年:AlesisがADATを発表
- 1991年:MP3が誕生
- 1999年:SONYとPhilipsがSACD(Super Audio CD)を発表
- 1999年:Napstar社による音楽配信が開始される
- 2001年:Apple社がiPodを発売
Max/MSPによるレコーディングパッチ
録音
このパッチはコンピュータのハードディスクへの録音、再生を行う初歩的なパッチです。
サウンドファイルの録音/生成には[sfrecord~]オブジェクトを利用します。録音するチャンネル数はこのオブジェクトの引数によって決定され、このパッチでは2ch(ステレオ)で録音を行います。
チャンネル数に応じて[sfrecord~]オブジェクトはインレットの数が変化します。このインレットはMSPによるオーディオシグナル(黄色と黒の太い線で接続される)を受け取る場合に左から順にチャンネル1,チャンネル2となります。
[open]メッセージが第一インレットにMaxシグナル(黒い細い線)で接続されています。[sfrecord~]オブジェクトはopenのメッセージを受け取るとサウンドファイルを生成する際のファイル名を決定するダイアログが出てきます。ここでファイル名とフォーマットを決定し、[1]というシグナルを[sfrecord~]に送れば録音が開始されます。終了するときには[0]というシグナルを送ります。この0と1という数値を明示的に表すためにこのパッチでは[toggle]オブジェクトを利用しています。このオブジェクトはスイッチのような機能があり、[ ]四角い空箱の状態では0を出力、[×]バツ印が表示されている状態では1のシグナルを出力します。これによって、今レコーディングが開始されているか否かを確認することが可能です。
再生
サウンドファイルの再生には[sfplay~]オブジェクトを使用します。引数で再生チャンネル数を設定することが可能です。デフォルトでは1chになっているので、ステレオ音源を再生する場合には2という引数を与えましょう。
第一インレットに[open]というメッセージを送ると再生するサウンドファイルを選択するダイアログが出てきます。どのディレクトリに置かれているファイルを再生するのかは[open /User/user/…]のようにパスを指定することで、あらかじめセットすることも可能です。この[sfplay~]オブジェクトに0以外の数値を送り込むとサウンドファイルの再生が始まります。
この送り込む数値は、1の場合サウンドファイルは録音された状態と同じ速度で再生されます。ここを2にすると音源は2倍の速度で再生され、ピッチは1オクターブ上がります。
同様に、ここに0.5という数値を送ると音源は半分の速度で再生され、ピッチは1オクターブ下がります。この数値を負の値、つまり-2や-10にするとサウンドファイルの逆再生が可能になり、その速度もリアルタイムにコントロールができるため、maxでこのスピードを変化させ音楽的な音響を生成するアルゴリズムを書いてやれば1つのサウンドファイルを劇的に新しいものに作り替えることが可能です。もちろんそのパラメータ変化はアルゴリズムではなく、midiコントローラを通じて人間がフィジカルに行っても良いでしょう。
Max/MSPパッチのダウンロード
recording.maxpat (for Max5.x)
max5Runtime(上記のプログラムの実行用フリーソフトウェア for Mac)
max5Runtime(上記のプログラムの実行用フリーソフトウェア for win)
録音技術参考文献