このページではPrefuse73に代表されるようなスライス、チョップの手法を解説します。サンプリングされた音声をイベント毎にスライスし、それぞれをリアルタイムに独立してコントロールするためにMax/MSPを利用します。
スライス、チョップとは
音楽においてスライスとは音を切断することを意味し、チョップとはその音を叩く、つまり再生する事を意味します。ここで紹介するチョップという手法はPrefuse73のスコットヘレンが一般に広めたヴォーカルチョップという手法です。
ヴォーカルチョップとはあらかじめ録音された音声をずたずたに切り刻んで、細かくランダマイズして再生する手法です。この再生方法によって元の音響素材は音色やグルーブ感が変化し、ヴォーカルトラックは歌詞の意味が希薄になり純粋に人間の声の音響としての特性だけを表現することが可能になります。
2001年当時はおそらくAKAIのMPCなど使い、サンプリングされた素材を手作業で切り刻んでいたと思われます。この手の手法はグラニュラーシンセシスとの類似性もありますが、チョップの特徴はモノフォニックにイベントが再生される点です。
Prefuse73
Vocal Studies + Uprock Narratives | |
Prefuse 73
Warp 2001-07-17 おすすめ平均 |
prefuse73はアトランタ出身のプロデューサー、ミュージシャンであるスコットヘレンのプロジェクトです。Savath & Savalas、Delarosa and Asora、Piano Overlord、Ahamad Szaboなどの名義でも作品を多くリリースしています。
幼少の頃から母親の進めで、ピアノだけでなく多くの楽器の習得を強制され、スズキメソードなどの教育を受け音楽センスを磨いていき、後にヒップホップ、パンク、エレクトロニックミュージックなどに親しむようになります。
prefuse73名義での最初のリリースはVocal Studies + Uprock Narrativesという2001年の作品です。この作品の中で使われたヴォーカルチョップという手法は瞬く間にエレクトロニカ界隈に広まり、現在はデヴィッドボウイなどの大御所までもが利用するようになっています。
Max/MSPでリアルタイムに実行
ReCycle
ループ素材を音楽的なイベント毎に自動的に切り分けるソフトとしてはプロペラヘッド社がリリースしているReCycleというソフトがあります。このソフトを利用すると、従来手作業でサンプラー内でイベントを切っていた作業が自動化できます。そのセグメントをランダムに再生したり、並べ替える事で新たなビートを生み出す事が可能となります。
ReCycle 2.1 リニューアル版 | |
プロペラヘッド 2009-05-23 売り上げランキング : 12775 |
Max/MSP版ReCycle
オーディオ素材をイベントごとに切り分けるオブジェクトとして、Nao Tokuiさんが開発されたSlice~オブジェクトを利用します。
Nao Tokui – 徳井直生
このオブジェクトはbuffer~オブジェクトで読み込んだオーディオ素材を解析し、イベント毎の発生時間を計測し出力してくれるオブジェクトです。これを利用してスライス、チョップを行うアルゴリズムを組みます。
パッチング
左部分のセクションでcollオブジェクトを使い、slice~オブジェクトの第一アウトレットから出力される数値の配列をline~オブジェクトに流します。
collオブジェクトは[1,1 576] [2, 577 1383] [3, 1384 1647] [4, 1648 1946] のように3つまとまりのデータを格納します。
これは左から順にセグメントのインデックスナンバー、開始位置、終了位置という淳版に解釈され、line~オブジェクトに接続されます。line~オブジェクトはplay~オブジェクトに接続され、サウンドのサンプルの一つのセグメントを再生します。
collオブジェクトはインレットに整数を受け取ると、そのインデックスに格納された数値を出力するので、line~オブジェクトの第二アウトレットから受け取ったbangとcounterオブジェクトを組み合せて、波形の一つのセグメントが終わったらインデックスが次に進み、再生されるセグメントも次に進む仕組みを作り出す事ができます。
セグメントはcounterオブジェクトの進行のように1から順番に読み込んでいく事で元のループを正確なタイミングで発音する事が可能ですが、この仕組みにメスを入れることでセグメントを本来とは異なる順番に並べたり、セグメントが進行したタイミングで別のイベントを発生させたりする事が可能になります。
ランダマイズ
セグメント化された波形はランダムな密度で繰り返し再生されるようにプログラミングする事が可能です。前述のline~オブジェクトの第二アウトレットから出力されるbangを利用し、中央の[random 120]のオブジェクトをトリガーします。
このオブジェクトは120を上限とするランダムな値を出力します。この0から120という幅を持つ数値は[metro 80]のオブジェクトに接続され、波形のセグメントが進行する度に0から120msの範囲でランダムにbangが連打されます。
このbangを利用し、collオブジェクトに格納されているインデックスをランダムに選び出し、0から120msの範囲でそのセグメントを連打します。
連打されたシグナルはplay~オブジェクトに送られ、最終的に正行で進行するループにミックスされ出力されています。
リアルタイムスライス、チョップのデモ映像
Max/MSPパッチのダウンロード
chop.mxf.zip (上記のMaxパッチの実行用フリーソフトウェア for Mac)
max5Runtime(上記のMaxパッチの実行用フリーソフトウェア for Mac)