Golden Mean / 黄金比
黄金比とは人間が変化と安定を求める際に最も適度なバランスを持った比率であり、
1:1.6180339887に近似される比率のことであり、自然界にはこの比を持つものが多く存在します。例えば、オウム貝の対数螺旋、松ぼっくり、ひまわり、バラ、樹木の枝分かれと角度、ウサギのつがいの増加数、細胞の増加などが黄金比の特徴を備えています。
一方芸術の世界、特にルネサンスの時代に黄金比は構成の基本に据えられており、パルテノン神殿を始め様々な美術、建築作品に盲目的に使用されていました。パルテノン神殿、ピラミッド、国連ビル等の建築から、ダヴィンチ、ミケランジェロの彫刻など黄金比によって分析ができるものは数多く存在します。
19世紀のヨーロッパで浮世絵などの大胆な構図のジャポニスムが流行すると、その流れは一転しました。
それを再び見直したのはドイツのワイマールに誕生したバウハウスという造形学校です。日本の美しい比とされていた3:5や5:8という比率は黄金比と近似の比であり西洋と結果的には同じであり、今日ではフラクタルやカオス等の先端の科学とも関わりがあることが注目されています。
音楽に置ける黄金比
音楽の世界では黄金比は古くはルネサンス時代からDufayなどの作曲家に試みられており、近代以降もバルトーク、ドビュッシー、そしてスタンフォード大学〜IRCAMでFMシンセシスを発明したJohn Chowningも黄金比を積極的に利用しています。
John Chowning
John Chowning (ジョンチャウニング)はアメリカの作曲家で、音楽のキャリアはフランスで20世紀もっとも多くの重要な作曲家を輩出したナディア・ブーランジェ門下として作曲の学位を取得し、その後スタンフォード大学で博士を取得しています。
スタンフォード大学のコンピュータ音楽の研究所CCRMAの教授としても有名であり、彼の最も大きな功績は今日YAMAHAがライセンス契約を結びDX7で有名となったFM音響合成の発明です。現在でも CCRMAはChowningの功績により大学からは全研究機関で1,2を争う研究費を獲得しています。
(YAMAHA DX7)
FM理論
FM音響合成の理論はChowningによって1967年に発明されました。
FM音響合成では自然音のような動的に変化する複雑なスペクトル/音色が、2つの発振器からの合成によって生み出されます。オペレータのキャリア、モジュレータの波形を正弦波とすると、合成される信号波 FM(t) は以下の式で表されます。
FM(t) = Asin(2πCt+βsin(2πMt)) A = キャリア振幅, C = キャリア周波数, β = 変調指数, M = モジュレータ周波数
FM合成で得られた出力のスペクトルは、C±nM (n = 1, 2, 3, …) の側波帯(サイドバンド)が現れたものとなります。たった二つのオシレーターからこれだけ多様な出力を得られるのは、多数のオシレータを必要とする正弦波の加算合成と比較しても非常に画期的な発明であり、ハードウェアシンセサイザーの設計において大きな影響を与えるものでした。
https://ccrma.stanford.edu/software/snd/snd/fm.html
黄金比とフィボナッチ数列による非整数倍音列の和声進行
(FM音響合成における部分音の分布)
Chownignは1977年、フランスのIRCAMにて"Stria"という作品を作曲しました。これはFMアルゴリズムのキャリアとモジュレーターの非整数倍比率による組み合わせに着目し、生成される複雑なピッチスペースのスペクトルを和声進行のように配置するために黄金比とフィボナッチ数列を利用しました。
キャリアとモジュレーターの比率を黄金比に設定し、基本周波数をフィボナッチ数列上に置くことでインハーモニックなスペクトラム上の幾つかのパーシャル周波数を共有し、共有音を軸にハーモニーの進行を作り出すことが可能になります。これは調性音楽においての共通音の保留と同様音楽を進行させる際に重要な前後の音響関係性を考えた連結を考えることが可能になります。
この曲は数字の特徴を利用し厳格に作曲されている作品であり、オートマティックに生成した部分はないという発言が本人から明らかにされています。
フィボナッチ数列
フィボナッチ数列の隣り合う項の比率は黄金比に収束します。
0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, 610, 987, 1597, 2584, 4181, 6765, 10946, 17711, 28657, 46368, 75025, 121393, 196418, 317811, 514229, 832040, 1346269, 2178309, 3524578, 5702887, 9227465, 14930352, 24157817, 39088169, 63245986, 102334155, 165580141, 267914296, 433494437, 701408733, 1134903170, 1836311903, 2971215073, 4807526976...
Max/MSPで実装
max/mspにはフィボナッチ数や黄金比を計算するオブジェクトが存在しないため、私が開発したmxjオブジェクトを利用し、インハーモニックな和声進行を実行するプログラムを作成します。
mxjによる黄金比、フィボナッチ数列のためのオブジェクトソースコード
import com.cycling74.max.*; import java.util.Random; public class goldenMean extends MaxObject { float y; public void inlet(int i) { y= i * (float)0.5 * (1 + (float)Math.sqrt(5)); outlet(0, y); } }
package m; import com.cycling74.max.*; public class fibonacci extends MaxObject { private int a = 0; private int b = 1; private int c = 1; int radix = 10; //start with base 10 public fibonacci(Atom[] args) { declareAttribute("radix"); } public void inlet(int i) { a = 0; b = 1; c = 1; if (i<=0) { b=0; } for (int j = 2; j <= i; j++) { c=a+b; a=b; b=c; } outlet(0,b); } }
上記の2つのソースコードは以下のmxjの解説ページを参考に自分でコンパイルし、クラスファイルを生成してからご使用ください。
http://akihikomatsumoto.com/maxmsp/mxj.html (mxj - max/mspにおけるjava)
mxjオブジェクトヘルプパッチのダウンロード
m.goldenMean.maxhelp ... for Max/MSP (Win & Mac)
m.fibonacci.maxhelp ... for Max/MSP (Win & Mac)
Max/MSPでFM音源の実装
FMシンセシスで必要な要素はキャリアオぺレーター、モジュレーターオぺレーター、インデックスエンヴェロープ、アンプリチュードエンヴェロープ、デュレーションです。これらはpolyオブジェクトを用いてポリフォニックなシンセサイザーを構築します。
m.goldenMeanとm.fibonacci オブジェクト
m.goldenMeanオブジェクトは左インレットに数値を入力すると、黄金比を計算しfloat値をアウトレットから出力します。m.fibonacci オブジェクトは入力された数字の項のフィボナッチ数を出力します。ここではdrunkオブジェクトを利用し、ブラウン運度で基本周波数が選ばれるような仕組みを採用しています。さらにその基本周波数はある頻度で0.5から1.5の疑似乱数値が積算され、これが転調のような効果を果たし、同じ周波数セットばかり選ばれることのマンネリを回避しています。
POLYオブジェクト
Max/MSPパッチのダウンロード
ChowningFM.maxpat.zip ... for Max5 (Win & Mac)
simpleFM.maxpat.zip ... サブパッチ
デモ映像
参考文献、音源
Phone (1980-1981) / Turenas (1972) / Stria (1977)/ Sabelithe (1971) John Chowning Wergo 2008-05-20 |
OHM+: The Early Music Gurus of Electronic Music - 1948-1980 [3CD+DVD] Maryanne Amacher Ellipsis Arts 2005-10-25 |
Computer Music: Synthesis, Composition, and Performance
Schirmer Books 1997-07-02 |
2061:Maxオデッセイ―音楽と映像をダイナミックに創造する!最高の開発環境を徹底解説
リットーミュージック 2006-10 |