Max/MSPはオーディオ、ヴィデオ、音楽、3Dグラフィックス、フィジカルコンピューティングを実現するためのプログラミング環境であり、メディアアート、インタラクティブアート、作曲、ネットワーク作品の分野で最も広く利用されています。
Maxが究極のソフトというわけではなく、様々な弱点もあるもののこの分野では避けては通れないほどのユーザー数と影響力を持ったソフトになっており、コンピュータ音楽の作曲家やサウンドアーティストであれば必ず抑えておかなければならない音楽言語と言えるでしょう。
Maxの概要
Max/MSPはMaxとMSP、Jitterという別々の処理を行うオブジェクト群によって構成されています。
- Max … ユーザー インターフェイス、タイミング、通信、MIDIプログラミング
- MSP … オーディオ処理のための拡張
- Jitter … マトリクスによる映像処理やOpenGLを使った3Dグラフィックスの生成のための拡張。
- gen … Max6から搭載された1サンプルごとに信号処理が可能な拡張
Maxの最新版であるMax6でどのようなことができるのかは、Cycling’74社のサイトのdid you knowのコーナーが役立ちます。
http://cycling74.com/category/articles/did-you-know/
Maxの歴史
Maxの歴史は1980年代フランスの音響研究所IRCAMのMiller Puckette(ミラーパケット)がインタラクティブなコンピュータ音楽のシステムの構築のためにMacintosh用のPatcher という音楽言語を書いたところからスタートします。
このソフトが最初に音楽作品で利用されたのは、1988年フランスの作曲家Philippe Manoury (フィリップマヌリ)のPlutonという作品です。
1989年IRCAMはNeXTのためにMax/FTSというバージョンを移植します。Faster Than Soundの略がFTSです。これはISPWと呼ばれるリアルタイム音響合成、音響処理のための外部装置を必要としました。Max/FTSはIRCAMをはじめとして世界中の30箇所もの研究所やスタジオに導入されました。
1989年にはOpcode
Systems社にMaxのライセンス供与を行い、1990年には初の商用版のMaxであるMax/Opcodeを発売します。後にOpcodeはDavid Zicarelliが設立したCycling74社から発売されるようになります。一方、1996年にMiller
Pucketteはカリフォルニア大学サンディエゴ校にてPDというMaxの音響処理機能拡張版とも言えるソフトを開発しています。これに触発され、Zicarelliは後にMidi生成機能しか持たなかったMaxにもリアルタイム音響処理を導入しMSPというパッケージとして発売されました。このMSPという言葉にはMiller S. Pucketteの意味が含まれています。
1998年IRCAMはオープンソースjava版のMaxであるjMaxを発表しますが、プロジェクトは現在では終了しています。
2009年現在の最新版はMax5。
Pluton
この作品は現在フランスで最も影響力を持つ作曲家の1人、フィリップ マヌリ(Philippe Manoury, 1052-)によって1987年からフランスの国立音響研究所IRCAMで制作が開始され、半年間一週間に二日程度半日の作業を経て完成された作品です。
これはMIDIピアノとコンピュータのための作品であり、それぞれがシンクロしSogitec4Xという音響合成のための装置を動かしています。Max開発当時からスコアフォローイングのような試みが行われており、当時では演奏者は一音でもミスタッチを行うとMIDI情報が欠損し、コンピュータの処理が失敗してしまう緊張感のある演奏が求められました。初演は日本のピアニスト野平一郎氏によって行われています。
野平氏の回想と楽譜の一部
http://www.jpta.jp/report/92/05.pdf
Max/MSPの特徴
Max/MSPの特徴と言えば何といってもJavaやC++などのオブジェクト指向言語とは異なり、オブジェクト同士をワイヤーで繋ぎ、グラフィカルにプログラミングを行える点です。
しかし、この方法には弱点があり、JavaやCと同程度のアルゴリズムを実装する場合の可読性が圧倒的に複雑になり、悪くなるという点です。複雑に絡み合ったワイアリングは俗にスパゲティーパッチとも呼ばれます。
この複雑さを克服するためにCycling’74に移行後はMaxはオブジェクトを増やすというアプローチで複雑なパッチングを防いでいます。
定番のアルゴリズムをMaxオブジェクトとして用意することで、ユーザーはこのオブジェクトの仕組みを知らなくても変数さえ与えれば成果だけを利用することが可能になり、Maxの敷居が下がることになりました。
これには中で何が起こっているかわからないという理由で、少なからず中級者以上の音楽家や作曲家、プログラマーから批判を受けるようになりました。
現に、Timelineオブジェクトなどいくつかのオブジェクトは致命的なバグがあるため、オブジェクトそのものが使い物にならず、それを改良することも不可能な状態になっています。これを打破するためにCycling’74はabletonと組み、Liveのタイムラインやオートメーション機能をMaxで、Jitterによる映像処理やOSCによる他ソフトとの連携をLiveでも利用可能なMax for Liveという強力なプログラムを開発しました。
Max/MSPのマルチリンガル性
Maxのもう一つの特徴として、様々な言語、プロトコルとの通信が容易ということがあげられると思います。Java, Javascript, Lisp, OSC, MIDI, RTcmix, csound, Chuck, Supercollider, Max for Live, VST, TCP/IP, xml, sqlなど数えてもきりがありません。これほど様々なソフトや言語と連携がとれるソフトはMax/MSPだけでしょう。
Max/MSPのマルチリンガル性については、Cycling’74のサイトに掲載されている、コロンビア大学コンピュータ音楽センターのBrad Garton教授のサンプルパッチ付きの記事が有効です。
Multi-language Max/MSP… Written by Brad Garton
http://cycling74.com/2007/03/26/multi-language-maxmsp/
Max for Live
Max for Live は、Ableton と Cycling ’74 による共同開発プロジェクトです。
Max/MSP のパワーとポテンシャルを Live に加えます。インストゥルメント・エフェクト・エクステンションを思うままに作成できます。標準的でありきたりな概念を取り払い、平凡なツールの制限を打ち破ってみませんか。独自のシンセやエフェクトを構築したり、アルゴリズム作曲ツールを作成したり、Live やコントローラに新しいミュージックマシンを融合することができます。 Max for Live は、何かを生みだし、創意を共有するチャンスをユーザに与えてくれます。
新しいデバイスをゼロから構築したり、既存のデバイスを変更したり、誰かが作ったデバイスを使ったりもできます。 Max for Live には、独創的なデバイス例と、デバイスの使用、調整、そして独自のデバイス構築までを説明した数々のチュートリアルが付属しています。
http://www.ableton.com/jp/maxforlive
Max for Liveの主な機能
- 独自のオーディオエフェクト、MIDI エフェクト、インストゥルメントを構築可能
- API を使って、Live セット・トラック・クリップ・デバイス・ノート・ループ・パラメータなどをコントロール
- ハードウェアの機能を拡張: Live に接続されているハードウェアコントローラにアクセスするオブジェクトを提供
- Max デバイスの作成と編集を可能にする専用バージョンの Max を搭載
- オーディオと MIDI 処理、アルゴリズム合成、リアルタイムパフォーマンス、ハードウェアコントロールにすぐ使用できる Max デバイスが付帯
- デバイスは Max で編集中も Live での再生が継続
- フレキシブルなユーザインターフェースデザイン: Live に合わせた UI や独自の UI を作成可能
- 論理、MIDI、スクリプト記述、オーディオ、ビデオ処理に対する数々の 内蔵 Max オブジェクトが付属
- 「Jitter」オブジェクトを介してビデオ合成とアニメーションに対応
- ステップ・バイ・ステップで Max for Live を使ったプログラム方法を学べるチュートリアル
Max/MSPに関する文献
Max/MSPに関して書かれた文献はIamasの赤松 正行氏と佐近田 展康氏が書かれたMaxオデッセイとMaxの教科書が有名ですが、音大などで講師をされている大谷 安宏氏のはじめてのMax/MSP/Jitterも発売されました。Max5になり、インターフェイス機能が充実し、やや敷居が下がったような印象を受けますのでこれまで学習に挫折してしまったかたも、初心者向けの新しい本を参考にされてはいかがでしょうか。
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Maxの教科書 売り上げランキング : 7737 |
Max/MSP類似ソフトウェア
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Reaktor | Quartz Composer |
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PD (Pure Data) | Openmusic |
- Native Instruments Reaktor … Maxよりも学習が容易で使い易いが、モジュラーシンセの応用系であり、FFTなどの面で能力が低く、映像やネットワークを利用した作品の生成を行うことはできない。
- Apple Computer Quartz Composer … はパッチ型プログラミングでありプログラミングのプロセスは非常に似ている。これは映像生成のためのソフトであり、音響に関しては優れたライブラリ等を持っていない。
- Pure Data … オリジナル開発者PucketteはMaxを設計しなおしたフリーソフトウェアプログラムとして1996年にPure Dataをリリースした。
これは基本的な点でMaxと異なる部分があるが、大部分は似ておりパッチ自体Maxのものが読み込み可能なものとなっている。 - OpenMusic … IRCAMによって開発されているアルゴリズミックコンポジション用プログラム。Maxが主に演奏行為におけるリアルタイム処理を目的とした使い方に適しているのに対し、OpenMusicは非リアルタイムの楽譜(MIDIデータまたはFinale用フォーマット)やサウンドファイルの出力に適している。
IRCAMが開発したSDIFフォーマットに対応しており、AudiosculptやMax、Finaleをはじめとする様々なソフトウェアとのデータのやり取りも充実している。