ノイズミュージックとは
ノイズミュージックとは前衛音楽やサウンドアートの世界で使われる用語で、絶え間ない連続音と不協和音、無調性などが特徴の音響音楽です。ノイズミュージックの特筆すべき点はディストーション(歪み)です。
電子楽器やコンピュータ、アコースティックな楽器などを利用してランダムな音を生成、加工することで音響を構成しています。また、サーキットベンディングやカスタムソフトウェア、自作楽器を使用する頻度が高いのもこの音楽の特徴と言えるでしょう。
ノイズミュージックは美学的には20世紀イタリアを中心に発生した未来派の運動や、ベルリンのダダなどが発端となっています。
中でもイタリアの未来派の画家であったルイジロッソロがもたらした影響は特筆すべきものです。
Luigi Russoloと未来派
ルイジロッソロ Luigi Russolo (April 30, 1885 – February 4, 1947) はイタリアの未来派の画家であり作曲家です。The Art of Noises (1913)の著作者でもあり、現在では最初のノイズミュージックの作曲家、そして最初の電子音楽の理論家の1人として知られています。
彼は教会のオルガニストの家に生まれ、弟Antonioもまた作曲家です。ロッソロはintonarumoriと呼ばれるノイズ生成機(ピッチと音量をコントロール可能なアコースティックな装置)を発明し、聴衆の前でパフォーマンスとしてノイズを利用しました。残念ながらロッソロのintonarumoriは第一次世界大戦で消失し、現在その姿を見ることはできません。
未来派は20世紀の絵画、彫刻、詩、演劇、音楽、建築、美食学の世界で発生した運動で、特に音楽の世界では伝統を排除し、機械による実験的な音響を追求しました。
The Art of Noises の中で彼はノイズを次の6つのクラスに分類しました。
- Roars, Thunderings, Explosions, Hissing roars, Bangs, Booms.
- Whistling, Hissing, Puffing
- Whispers, Murmurs, Mumbling, Muttering, Gurgling
- Screeching, Creaking, Rustling, Humming, Crackling, Rubbing
- Noises obtained by beating on metals, woods, skins, stones, pottery, etc.
- Voices of animals and people, Shouts, Screams, Shrieks, Wails, Hoots, Howls, Death rattles, Sobs
またロッソロは楽譜の記譜法も彼の音楽に合わせて、従来とは異なる新しいものを提示しました。この書き方は現在の電子音響音楽の作曲家の楽譜にも広く取り入れられています。
"Risveglio di una città"
Merzbow (秋田 昌美)
Merzbowこと秋田昌美(1956-)は日本のノイズミュージシャンであり、出身の玉川大学芸術学科にて油絵を専攻しダダやシュルレアリスムに影響を受けました。また芸術理論に加えて舞踏を学んでいるところも他のミュージシャンとは異なるキャリアです。
Merzbowは現在秋田昌美のソロプロジェクトですが、過去にはメンバーが存在した時代もありその歴史は1979年に遡ります。
音楽のキャリアはドラマーとしてスタートしたこともあり、アレックエンパイアがフジロックフェスティバルのメインステージに登場したとき、秋田昌美はバックでドラムを披露しました。Merzbowは非常に多作なことでも知られ、2000年には50枚組のCDも発表しています。
彼の音楽は一貫して極端なまでに音響を歪ませたハーシュノイズの塊です。周波数帯域の上限から加減まで常に飽和しきった音が構築されているため、一般的なCDよりも遥かに大きな音量で再生されているように知覚されます。この大音量はライブではいっそう顕著になります。中には耳栓をして演奏を聞いている聴衆がいるほどです。彼の音楽は聴覚などなくても皮膚や臓器が振動するほど強烈なものです。
初期の作品は金属やパーカッションのテープループを素材とし、小さな音をマイクで増幅し極端に歪ませた音楽でした。2001年頃からは制作のベースをラップトップコンピュータに変更し、動物の鳴き声などさまざまな具体音のサンプルを利用し始めました。人間の声なども使用しますが歌詞がない叫びを素材としています。
また、リズムやメロディーを用いないのも彼のハーシュノイズの特徴です。そのノイズの音色も非常に個性的であり、グリッチと呼ばれるようなデジタルノイズではなく、アナログディストーションの延長線上にあるような音色です。
実際彼のライブではその会場にある全てのギターアンプ、ベースアンプにラップトップコンピュータを接続し、フルボリュームでアンプを歪ませたりします。これはあらかじめラップトップで作り込めるサウンドデザインだけでなく、本番会場備え付けのアンプ設備を利用した音色作りであるため、本人は当日演奏してみないことにはトータルの音響は予想できていないと思われます。
Merzbowの音楽作品
Merzbeat | |
Merzbow
Important 2004-08-03 おすすめ平均 |
Frog | |
Merzbow
Misanthropic Agenda 2005-02-28 おすすめ平均 |
Max/MSPで実装するハーシュノイズ加工プログラム
今回作成したパッチでは、ノイズを生成するのではなく既存の音響素材を加工して、どんな素材を利用使用ともメルツバウ風のハーシュノイズに変えてしまおうというプログラムになっています。
Max/MSPというデジタル環境でディストーションのような暖かみのあるアナログノイズを発生させるにはいくつか手段がありますが、ここではウェブシェイプ音響処理をハーシュノイズ加工のために利用しています。
最終的には実際のMarshallアンプから採取したインパルスレスポンスを利用し、加工したハーシュノイズサウンドを更にMarshallのギターアンプに突っ込んだ音までを再現しています。
Waveshapeによるディストーション
Max/MSPにはウェブシェイプを実行する便利なlookup~オブジェクトが存在します。
このオブジェクトはバッファーオブジェクトのテーブルデータをウェブシェイプ関数として利用するオブジェクトです。バッファーへのデータの書き込みはLuke Dubois氏が開発したgen24オブジェクトを利用しました。これはMac専用のオブジェクトとなりますので、windowsでは動作しません。
gen24オブジェクトのダウンロード
http://music.columbia.edu/PeRColate/
Buffirオブジェクトとインパルスレスポンス
マーシャルアンプ真空管のモデリングを行うのに利用した重要なオブジェクトがbuffirオブジェクトです。このオブジェクトはインパルスレスポンスファイルを元にFIRフィルタをかけるオブジェクトです。
インパルス波はMSPのClick~オブジェクトを利用し、この信号を実際にスタジオでMarshallのスーパーリードというアンプに接続し、SM57のマイクでキャビネットから音波を採取し録音しました。
実際このレスポンスの録音はとても難しいもので、後からノーマライズやコンプなど様々な波形編集を経なければ使い物になるインパルスレスポンスにはなりませんでした。
この録音によって得られたインパルスレスポンスの波形データをMax/MSP上のバッファーオブジェクトにメモリーし、buffirから読み込んでやるとマーシャル風のフィルタリングが行える魔法のようなオブジェクトです。
あくまでこれはフィルタリングのみであり、歪みに関する仕組みは多段ステージを用意してあるものの、マーシャルの特性と完全に一致するほど詰めてはいないため、メルツバウのノイズ以外の用途で利用した場合に全くマーシャルらしからぬ響きがする場合があるかもしれません。
尚、市販されているAltiverbやWavesのIR1などのIRリバーブ、サンプリングリバーブなどクローンと呼ばれるエフェクトも基本的に原理は同じです。
youtube
Max/MSPパッチのダウンロード
MerzbowNoise.mxf (for Max5.x)
max5Runtime(上記のMaxパッチの実行用フリーソフトウェア for Mac)
max5Runtime(上記のMaxパッチの実行用フリーソフトウェア for win)