現代音楽、前衛音楽の作曲技法であるトーンクラスターはリゲティ、クセナキス、ペンデレツキなど様々な作曲家によって20世紀後半に探求されました。
今でこそ当たり前になった感はありますが、例えばC, C#, Dなど隣接する音、微分音も含めた分割で隣り合う音を同時に発音したときの音響は旋律やリズムを超越して、音色として独特の魅力があります。
中でもマイクロポリフォニーを提唱したリゲティのルクスエテルナなどの作品のトーンクラスターにアイデアを得て、任意のオーディオファイルに対して、旋律やリズムを目立たなくし抽象的な音色の遷移に変換してしまうようなソフトウェアを開発しました。
これは楽譜ではなくデジタルのサウンドファイルを変奏するプログラムのシリーズです。
僕の中では一種のアルゴリズム作曲法と捉えています。
購入は以下から。
Audio Cluster for
音楽の楽譜には長い歴史があり、演奏や録音とは違い、記号として時代とともに発展を遂げてきました。
録音された音楽は絶対的なデータであり、演奏の解釈という余地はありません。
しかし、楽譜には演奏解釈があります。
その時代時代に合わせて、楽曲の演奏は微妙に変化する余地を残しているのです。
例えばバッハの時代にはピアノはありませんでしたが、現在バッハの鍵盤楽器のための作品はチェンバロよりもピアノで演奏されることが圧倒的に多いです。
オーケストラのチューニングもA=430Hz付近の時代もあれば、442Hzで演奏される時期もあります。
作曲された作品にそこまで細かい指示があれば、それは従わなければ音楽ではなくなってしまいますが
指示を壊さない範囲では音楽は自由に演奏ができるのです。
作曲家はその予測不可能性を狙って、録音ではなく楽譜メディアに音楽を記録したりします。
しかし、デジタル以降の音楽はどうでしょうか。
生演奏の楽曲は別として、電子音響音楽やコンピュータ音楽、テクノ、エレクトロニカ等のデジタル音楽はデータとして完全に固定的であり、テープ音楽作品の演奏でできる解釈の余地は少ないのです。
テンポやチューニングを変えることもできませんし、スピーカーや音響機器など下流のシステムをその場に最適化するくらいしかできることがありません。
演奏というより、調整に近いです。
しかし、僕が提唱したいのは、音楽のデジタルデータの再生方法は順方向の1.0倍のスピードという固定観念に捕われる必要は無いのではということです。
デジタル音楽を配信しているクリエイターも、それをどのような環境でどのように再生しろとは指定している例は少ないでしょう。
サンプリングカルチャーなどはそこを利用して音の新しい解釈を生み出しているとも言えます。
PCM2chにミックスされたデジタル音楽であっても、CDであれば44100サンプルの記号が一秒間に詰まっています。これは現代の楽譜と考えることもできるのではないでしょうか。
となれば、やりたくなるのが音楽の変奏。
数小節のサンプリングやリミックスではなく、あくまで2ミックスのデジタルオーディオデーターをどう扱うか。
変奏は、英語で言うところのバリエーション。リズム、メロディー、音色、和声に変化を加えたり、さまざまな装飾を施し音楽にバリエーションを与えるものです。
変奏は原曲にオリジナリティーがある編曲、アレンジとは異なり、変奏に最大のオリジナリティーがあります。
つまり、サウンドファイルを変奏するということは原曲の再生以上のクリエイティビティーが潜んでいる可能性があるのです。
サンプリングや編曲とは全く違った音楽ファイルの未知の可能性を開拓することが狙いです。
その可能性を見せてあげることこそが、現代にものを作る人間の役割かなと。