日大芸術学部でのQ&A


キュレーターの高橋裕行さんにお誘いいただき、日大芸術学部で一回限りの講義をしてきました。
題材は「技術と音楽」。
テクノロジーの進化がどれだけ音楽を変えてきたのか、楽譜の発明、楽器の発明、録音技術の発明、コンピューターの発明と4本柱で具体例を紹介しました。

コンピューター以降の創作事例として自分が作ったいくつかの作品もお見せし、50人以上いるクラスでみなさんから質問を回収し様々なご意見をいただいたのですが、授業内にすべてにお答えする時間が無く、せっかくいただいた質問は自分にとっても音楽、芸術を見直す上で貴重な機会となるため、こちらで回答させていただきます。

Q&A

Wさん

Q:人が機械にルールを教えて、機械が作り上げた音楽の場合、この音楽を作曲したのは人、機械のどちらになるのでしょうか。

A:とても重要な質問です。僕の考えでは、このような創作は従来の作曲という言葉の範疇ではおさまらず、ただ、作者は人間と考えることができると思います。機械が独りでに音楽を作っているのならそれは機械の創作だと思いますが。この質問で難しいところは、例えば人間Aが人間Bにルールを教えて作曲をさせた場合、作曲者はAさんBさんのどちらになるのかという点です。おそらく独創性が必要なのはAさんで、具体的にルールを音楽に落としこむための技術が必要なのはBさんです。従来の作曲ではこのAさんの仕事とBさんの仕事はわかれていませんでした。しかし、コンピューター以降の作曲の発想ではこの2つをわけて考えることも可能になりました。その場合、Aさんはメタ作曲家、Bさんは作曲家と考えることができるかもしれません。

Iさん

Q:機械に音を作らせる魅力とは何ですか。

A:人間は聞いたことがある音にどうしても発想が縛られてしまいがちで、全く聞いたことがなかったような新しい音と出会うにはコンピューターによるランダムなプログラムによって偶然でてきてしまうような現象をいかに取りこぼさずに、深く突き詰めるかにかかっていると思います。人間の力ではどう発想しても到達出来ないような音表現を独自の計算やアルゴリズムから生み出すことができて、それが芸術的であった場合の快感は頭脳のみを使って音楽を作った場合よりも僕の場合ずっと大きいものです。

Aさん

Q:図形楽譜って今でも使われているのでしょうか。五線譜が一般化しているということは五線譜が一番音の再現が可能ってことでしょうか?

A:現在でも図形楽譜に取り組んでいる作曲家はいますが、誕生当時ほどの盛り上がりでは無いと思います。
五線譜は世界中の音楽教育に取り込まれていて、音を使ってコミュニケーションを取るためのツールとしては最も高い普及率を持っていると思います。バイオリンやピアノなど西洋の楽器の演奏者は五線譜以外の楽譜を読める人はほとんどいないため、彼らとコミュニケーションを取るには五線譜が必要になります。
図形楽譜に関してはNotations21という素晴らしい写真集があります。
http://www.amazon.co.jp/gp/search?field-keywords=notations21

Kさん

Q:アルゴリズム作曲におけるルールで人間の感性的に不快な部分は一切排除できるか。

A:何を不快と感じるかは文化や地域、人によって様々ですが仮に人類が共通して感じる不快な響きがあったとして、そういったものを全て排除することは可能だと思いますが、音楽には協和音に解決するための不協和音が存在するようにドラマチックな展開を作るためには不快な要素も必要だと思います。例えば毎日ステーキばかり食べていても次第に飽きてしまい、美味しかった料理が不味く感じられてしまうように。

Sさん

Q:コンピューターでは楽器に無い音色を作り出すことができるとのことだったが、生楽器に出来て、コンピューターに出来ない種の音楽はあるのか。

A:コンピューターを使った場合、音色という意味では限りなく無限に近い可能性がありますが、反対に演奏パフォーマンスの部分はコンピューターによる生成や自動演奏は弱いと思います。それと、コンピューターは電気が無ければただの箱なのに対して、生楽器は東京電力が計画停電を実施していても音楽を演奏することができます。

Sさん

Q:音楽は人をひきつけるとても素晴らしい芸術だと思いますが、絵画は音楽に勝てるのでしょうか
絵画は一瞬で伝えることができ、音楽ほど伝えるのに時間はかかりませんが、人から拍手をもらうことはないです。音楽に勝てる絵画作品はありますか。

A:拍手が勝ち負けを決めるものでは無いと思いますが、もしも絵画に対して拍手が欲しいのならば鑑賞者が拍手をするように作品形態を誘導していくことで全く新しい表現が生まれるかもしれません。

Oさん

Q:アルゴリズム作曲の利点は何か

A:タイポロジーのような表現が自分には興味深いです。同じ様式、アルゴリズムから生まれた音楽のバリエーションを複数並べて、それらの差異や共通点を鑑賞し根幹にある部分を見つめることに興味があるため、自分も作品には無数のバリエーションが生じるようにプログラムを設計しています。

Tさん

Q:とにかく伝わってきたのは音楽を愛する気持ちでした。もし一生困らないほどのお金が手に入って仕事をしなくても生きていけるようになったとき、先生は何をなさいますか?

A:音楽の仕事は必ずしも生活のためにやっているのではなく、抑えきれない制作欲求もあるためで、大金が手に入ったとしてら制作機材や環境に妥協しなくなるとは思いますが、変わらないペースで音楽を作り続けると思います。

Kさん

Q:著作権について音楽を完成させたとして似ている作品があると知らなかった場合、著作権違反になりますか?

A:著作権侵害は当事者が知っている知らないといった事実ではなく、似ているか似ていないかが焦点となります。ただ、著作権は親告罪であり、著作者が発見して訴えて初めて違反になる法律です。これも日本が昨今ニュースで話題になっているTPPに参加した場合に、著作者からの告発なしで警察による摘発や刑事罰の適用が行えることになるため、政府の動向が注目されています。

Kさん

Q:電子楽器の仕組みとしてスピーカーで出力されているということは、出力する媒体を変えて、新しい音楽の形を作り出すことは可能でしょうか。

A:スピーカー以外から出力する試みは多くは無いですが、面白い挑戦になると思います。振動子や骨伝導を使って空気を振動させず直接身体に振動を与えて音楽を鑑賞させたり、頭に装着した電極に直接音楽的な電気信号を送ればスピーカーとは全く違った表現や知覚を与えることができると思います。

Iさん

Q:今日聴いた音楽は近未来的な音楽だと思ったのですが、現代は過去の古い音楽もポップスも海外の音楽も様々なジャンルの様々な時代のものをいつでも作ったり聴いたりできるのに、なぜこのようなジャンルにひかれたのかと思いました。

A:過去の音楽に素晴らしいものは沢山あると思いますし、僕自身も歴史的な名作をよく聴きます。ただ、自分が作る立場となった場合、過去に存在し評価を得ているスタイルを踏襲し作品を制作するよりも、全く新しい独自のスタイルを作るほうが面白いと感じるので、自分が好きな音楽というより自分も聞いたことが無いような新規性を開拓したいと思っています。

Iさん

Q:コンピューターなどの電子機器を使った楽器を楽器だと認めないと言う人もいると言っていましたが反論などはありますか。

A:僕は楽器という言葉の定義として、音楽を演奏するための道具という考え方を支持しているので、電子部品でつくられていようが、木材でつくられていようが、火や水、光の力を使って成立していようが、音楽の演奏のための道具であれば楽器だと考えています。

Yさん

Q:コンピューター技術の発達により音楽も発達し、広がりましたが、その発達したコンピューター技術を通してiPhoneよりもずっと小さな音楽専用の媒体等はできたりするのでしょうか?

A:コンピューターの範囲はどこまでと捉えるかは難しいところで、現在のシンセサイザーにはコンピューターのようなCPUやメモリーが搭載されていて、ただそれが音楽専用にしか使えないという点がコンピューターと違うところです。僕が知る限りはiPhoneは最も小さくて最も高性能なコンピューターで、録音から演奏まで様々なことを専用機材に匹敵するレベルで行うことができる優れたデバイスだと思います。専用機では無い点は逆に音楽産業の浮き沈みに左右されずデバイスやソフトが生き残れるので、多少安心して使えるというメリットがあると思います。iPhoneよりもずっと小さな音楽専用の媒体等もiPhoneくらい爆発的に売れるものであれば生産されることがあると思います。

Nさん

Q:アルゴリズムって何だったのか、あまりよく分かりませんでした

A:音楽で考えると難しいかもしれませんが、アルゴリズムとは簡単に言うとものごとを構成する規則のことです。それは音楽だけでなく、さまざまな分野で応用できる考え方で、例えば絵を描くときに黒と赤の絵の具のみを使うといった規則もまたアルゴリズムの一種と考えることができます。そのアルゴリズムを守って生まれる絵はどのような描きかたをしてもアルゴリズムを設定した人のスタイルを内包します。

Yさん

Q:私は人間の歌声が好きなのですが、ゆくゆくは人間の声と遜色無いくらいになると思いますか。

A:ゆくゆくは人間と聞き分けの付かないレベルになると思います。しかし、人間の歌に求められているのは技術や音色といったものだけではなく、その人間自身のパフォーマンスだったり存在であるため無くなることは無いと思います。しかし、大量消費のコマーシャル用途などでは非人間の歌や音声ガイドが制作コストの削減に繋がるため、こちらもまた拡大していくと思います。

Pさん

Q:ボーカロイドの技術や作品をどう思われるでしょうか?

A:現時点では興味が無いです。音声合成の技術で言うと、MacのSpeechという英文の読み上げソフトを使って、片言の日本語を無理矢理発音させ、技術を笑いに変えることのほうが興味があります。

Kさん

Q:ボーカロイドとは何ですか?元はなんだったのでしょうか?

A:音声合成といって人間の声をコンピューターで人工的に作り、歌わせるものです。
詳しくはwikipediaをご参照ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/VOCALOID

Hさん

Q:これは凄いと思う楽器はありますか?

A:僕はエレキギターから音楽を始めたので、エレキギターに対する思い入れは大きいです。何しろ他の楽器ではなかなかできない音色を作るということができるので。シンセサイザーも音を作ることはできますが、あらかじめ楽器にプリセットされた音を選ぶという感覚に近いのに対して、エレキギターは完全に1から音色を作らなければならず、また指先のタッチ一つでその音色も変化するため奥深い楽器です。

Wさん

Q:iPhoneアプリの名前が知りたいです。

A:Minimalist Styleという名前で、RjDjというソフトを経由してダウンロードできます。
http://rjdj.me/music/Akihiko%20Matsumoto/Minimalist%20Style/

Tさん

Q:松本さんが作成されたAuto Tuner、Interactive等はダウンロード販売がされているのでしょうか。

A:Auto Tunerは配布していないのですがいずれ下記のサイトで配布するかもしれません。
http://akihikomatsumoto.com/download/index.html
Interactiveのテーマで紹介したiPhoneのアプリケーションはMinimalist Styleという作品で、前述のRjDjのURLで無料で配布しています。

Yさん

Q:コンピューターの音楽編集についてどういった学習をすれば技術が身に付きますか。

A:現在はCubase、Logic、ProtoolsやLiveのような様々な音楽ソフトが比較的手軽に手に入りますし、まずは自分であれこれやってみたいことを実験をしてみて分からないことがあったらその部分のマニュアルを読んだりする手順で少しづつ進めて行くと良いと思います。

Oさん

Q:方眼紙から五線譜に翻訳するというのは五線譜で表現しきれているのですか?
五線譜で表現が難しい音楽を方眼紙でというのと矛盾している気がします。

A:作曲家が作曲のために使う楽譜と演奏者が演奏のために使う楽譜は微妙に異なります。
演奏者はいわゆるクラシックの音楽教育を受けている人がほとんどですので、五線譜以外の楽譜を渡されてもそれをどう演奏すれば良いのかわからないのです。なので、翻訳という作業が必要になってしまうのですが、作曲家の最初の構想は五線譜で書き表すことが難しいような図形楽譜だったり、クセナキスのように方眼紙に音の動きを直線的に記したようなものである場合があります。こういった楽譜の翻訳や演奏による齟齬の発生を嫌い、コンピューターに設計通りにプログラミングし、電子音で再現するケースもあります。

Iさん

Q:ボーカロイドも新しい楽器に含まれるのでしょうか。

A:僕は新しい楽器の一つだと思っています。

Yさん

Q:コンピューターの音でオーケストラの指揮者をだませるようになったか。

A:コンピュータの音というより、スピーカーから出る音と楽器から出る音の違いをわからない指揮者はいないと思います。録音された楽器の音とシンセサイザーから発音された楽器の音を識別することは現在とても難しくなっています。理由はシンセサイザー自体がPCMという方式で実際に楽器の音を録音した素材を使用しているので、原理的には両者に差が無いからです。

Q:コンピューターでできるならコンサートやライブは変わっていくのか、人が生でやる必要は薄れるか。

A:コンピューターでの音楽の生成や演奏は十分に聴くに耐えるレベルに進歩していると思います。
しかし、人がコンサートやライブで体験したいものは物理的な音響現象だけではなく、作家の表情や存在感、振る舞いなど音楽とは直接関係がない部分も多いはずです。そういった需要は我々が人間である以上無くならないと思います。

Mさん

Q:IRCAM SPATをどう使われているか気になります。自分も使用しているのですが不明な部分が多く、何か良い学習方法はありますか?

A:SPATはヘルプパッチを見ながら実験するしか無いと思います。SPATはシミュレーションのプログラムを書くことよりも実空間でそれをリアライズする作業のほうが難しいです。スピーカーのチューニング一つで立体感が死ぬこともあります。

Yさん

Q:今つくろうと考えている作品がどんなものか知りたいです。

A:僕はつくづくコンピューターで作る音楽の演奏、パフォーマンスに疑問を持っていて
iPhoneをコントローラーとしてインタラクティブにパフォーマンスをしたり、ウェブカメラを使って光をパフォーマンスに使ったりしましたが、どれもしっくりくる感じが無く
コンピューターに音を作らせているのだから、徹底的に人間性を排除したようなパフォーマンスを考えています。

Sさん

Q:コンピューターが作り出す曲でも偶然性というものはあるのでしょうか。

A:コンピューターのプログラミング言語にはほぼ必ず乱数という概念があり、そういったものを取り込むことであらゆるパラメーターで偶然性の度合いを制御し、音楽を構築することができます。例えばきっちりした機械的なリズムの2拍目だけをランダムに数ミリ秒タイミングをずらすといったプログラミングを行うことで、どこか人間の演奏のようなルーズさが生まれたりします。

Q:アナログ音楽からコンピューター音楽へ移り変わっていく中で失われた良い点は何かありますか。

A:カメラのデジタル化にも同じようなことが言えると思いますが、緊張感が失われてしまったのではないかと思います。録音のテープが高価だった時代は何度も演奏をやり直すことはコストがかかるため、皆一発で仕上げるために緊張感をもってレコーディングに望んでいましたが、現在は何テイクやり直しても録音のためのハードディスクは劣化しませんし、量を沢山録音しておいて、後からどれを採用するか選ぶといった手法もよく使われるようになりました。これによってミュージシャンの演奏時の独特の緊張感や質が低下したと感じている音楽関係者は少なくありません。

頂いた感想

・音の視覚化って何か面白そうで興味を持ちました。自分でも調べてみようと思います。

・音楽について無知なのでおもしろかったし話がわかりやすかったです。自分が思っている以上に音楽がプログラムと密接していて驚きました。

・コンピューターの発達により、これまでありえなかった視聴者との相互的な「音楽」というものは一昔前からすると真新しいものに思えます。

・将来的に人が全く関わらない音楽というものが出来そうな気がしました。

・音楽は耳を満足させる媒体から始まり、今は目まで満足させる一つの感覚を刺激するものになりました。

・音楽の発展はコンピューター無しではあり得ないということが分かった。コンピューターの影響や可能性の大きさを感じました。

・ある意味で音楽は素人にも手軽なものになったのかもしれませんが、先日プロのピアニストの方の演奏を聴きに行った際に、音楽以上にその空気感や空間などのエネルギーを感じ、やはり生演奏はすごいものだなと実感しました。なので、音楽の基本というか大切なものは今後も続いていく気がします。ですが、コンピューターにしか作れない音楽を考えることは面白いなと感じました。

・初音ミクなどのボーカロイドの魅力が全くわからないのですが、今日聴いた音楽は水の中にいるような感覚でとても、心地よかったです。展覧会や美術館でたまに感じたことのある雰囲気を感じ取れた気がします。

・これからもっとボーカロイドみたいなものがたくさん出てくるんじゃないかと思います。

・ゲームで人の動きに合わせてプレイ出来るものが増えているので、電極を使った真鍋さんの作品のように人間自体が楽器になるとおもしろそうだなと思いました。

・曲を作る敷居が低くなり、子供やおじいちゃんおばあちゃんなども作れるようになると思います。また、思い立ったらその心境をすぐに曲にすることもできると思います。

・古い時代の楽譜が特に珍しかった。今の時代のように均等に配置されていなくぐちゃぐちゃに見えもするが、国々、歴史で違うのが面白い。

・これからの音楽は、楽器による音楽は特別になり、コンピューターによる音楽がより身近になるのではないでしょうか。

・クセナキスの図形楽譜で音を図として表現すると面白い画面ができるのだと思いました。でも音楽としては不協和音にしか聞こえませんでした。音楽ってむずかしい。

・このようなジャンルで読みやすい本があれば読んでみたいです。

・プログラミングによる音楽は初めて聴きました。ループ音源などは知っていますが、どういったシステムで音を出しているのかまた音の高さを変えるプログラムにとても興味があります。

・音を可視化することができるという点がおもしろいと思いましたが、作れない音が無いというほど音楽の自由度が上がったというところが一番魅力的な部分だと思いました。

・コンピューターによって音楽を気軽に作ったり持ち運んだりできるようになったので、音楽がより身近になったけど、逆にコンピューターがあることでより複雑なことができるので、音楽が遠い存在に感じる部分もあるのかなと思いました。

・紙が無くなるようになったら、楽器も無くなると思う。

・アルゴリズム音楽が店内に流れ出したら私はちょっと嫌です。

・音楽に関しても他のものと同じくデジタル化が進んでいることを実感しました。音の視覚化は今後いろいろな業界で活きる可能性がありそうです。

・Auto Tuneかわいいです。マネたい。身体の制御、若干こわかったです。アブトロニックを思い出しました。