坂本龍一+高谷史郎によるインスタレーションLIFE fluid, invisible, inaudible… のサウンドプログラミングを担当しました。
YCAMでは10周年記念関連のアーティスティック・ディレクターである坂本龍一さんの作品が一挙に展示されておりファンの方にはたまらない展示となっているでしょう。
インスタレーションなので作品の詳細はぜひ会場に足を運んで確かめてください。
今回僕は初めてゲストプログラマーでYCAMに行ったのですが、噂に聞いていたとおり非常に仕事がはかどる環境です。
もう通常の1/3くらいの時間で作業が完了するような感じでした。
そして驚くべきYCAMインターラボのスタッフの技術力の高さ。
地方の美術館では専門スタッフの不足もあり、しばしば質的な妥協をせざるをえない場面はあるかと思いますが、YCAMでの制作に妥協はありません。
展示だけでなく、入り口の印刷物の質感まで全てのスタッフがこだわりを持って自分の仕事を全うしていて、熱意を感じます。
東京にもこんな施設があればなと思いつつ、アーティストが雑音無く落ち着いて制作に取り組めるという意味では、これは山口のYCAMじゃなきゃ無理だと思う部分も多々ありました。
阿部さん、井高さん、西さん、インターラボの濱さん、伊藤さん、作家の坂本さん、高谷さん、空さん、そして大変な中病院から敏速なメール対応いただいた矢坂さん、非常に快適な環境で制作に集中することができ感謝しております。
プライベートでも僕のパートナーが20年以上前から坂本さんにはお世話になっており、かねがね噂は伺っていたのですが、僕個人は坂本さんとは面識は無く、今回緊急ということで全く別のルートから仕事のお話が来て、空さん含めて4人で山口でいろいろお話できたということは僕個人としてはばらばらだった点が線で結ばれたような大きなドラマでした。
今回のプログラミング内容としては過去の作品なので、現代的にアップデートするものなのですが
他人が書いたプログラムをアップデートする経験は初めてだったので、大変でしたが貴重な経験ができました。
ちょっと前に話題になっていた以下のリンクの話を思い出しました。
コンピュータ音楽の回顧的実演・維持保存と『移植』問題
http://togetter.com/li/526172
同じくプログラマーで入っていた映像の古舘健さんは過去にMaxで書いたプログラムをopenFrameworksで書き換えるというハードなアップデートを短期間でやってました。それによってハードウェア関係がかなりスリムアップできて、今後の展示にもプラスになっていることと思います。
今回の作品では特に問題は発生していませんが、あらためて、メディアアート系作品の持続の難しさを考えるきっかけになっています。
既に完成した作品を、また展示できる状態にもっていくにはプログラムだけでなく、ハードウェアつまりコンピューターも制作当時のマシンとOSを維持することが最短距離です。
IRCAMなどは電子音楽作品の実演のために古いコンピューターとOSも全て保存しているそうですが、日本でそのような保守を行っている例は聞いたことがありません。
数年の時間を超えた作品は、マシンを現行のものにする関係上プログラムも最新のOSで動くことが求められ、一番起こりがちなトラブルは新しいOSでプログラムがオリジナルと同じように動かないことなのですが
幸い今回の作品は作家が立ち会っているので、相談をしながらゼロベースで新しくプログラムを書くことも可能なんです。この時点で問題は解決できる可能性が非常に高いのです。
問題は、作家が亡くなっている作品などはオリジナルの状態がわからなく、最新環境に移植、アップデートした部分で書き変わる部分が正しいのかを判断する人間がいなくなってしまうことです。
アートで使われるコンピューターやプログラムが音楽の楽譜のように普遍的なものであれば数百年に渡って、このような問題は起こらないのですが、プログラムやマシンを維持できるのは10年そこそこがいいところなのではないでしょうか。
それを理由に市販のソフトは一切使わず、オープンソースソフトウェアだけで作品を作る作家もいるくらいです。
現状では数十年しか作品を維持していけないであろうコンピュータを介したアート作品をどう維持していくか、これは悩ましい問題です。
作家の仕事なのか、プログラマーの仕事なのか、美術館の仕事なのか。
その作品のプロジェクトは展示や演奏の企画が決まって初めて予算が組まれてスタッフが動き出すものですが、古くて大規模な作品だとそこから動き出してもプログラムの修復が間に合わないといったことは容易に想像ができるのでリスクがあります。
僕も展示のオープンのスケジュールがある関係で今回テコ入れはできなかったけれど、あと10年持つか微妙な書き方をしている部分などは残っているので、少々もやもやしている部分はあります。
(展示される作品の見え方、聴こえかたにはまったく影響しない内部的なプログラムのみの抽象的問題です)
しかし、ここをきっちり整備していくにはもっと締め切りが緩い長期的なスケジュールで取り組まなければ難しいです。ましてや展示されるものの見え方聴こえかたには全く影響しない部分なので、そこに時間をかけさせてほしいということはなかなかプログラマーから言えることではありません。
しかしながら、その危機感もプログラマーしか感じていない部分なのです。
これから日本の良質なコンテンツを海外に発信していく戦略があるのであれば、メディアアート系のコンピュータプログラムのメンテナンスのために国家予算が使われて良いのかもしれません。