2012年1月7日〈土〉―1月15日〈日〉11:30-19:00の期間行われる東京芸術大学の卒業、修了制作展にてオーディオヴィジュアルインスタレーション「Artificial Scape」を展示します。
2010年から芸大大学院の先端芸術表現科というところで勉強していたのですが、学校関係での展示は最後になります。
場所は横浜のBankARTなので、なかなか良い立地なのではないでしょうか。
僕は芸大に来るまでは、現代音楽の中の更にニッチなコンピューター音楽という文脈の中での作品を作っていたのですが、やはりどんなに良い作品を作っても、少し違った分野の人から見ると全く理解が出来ない芸術というのはあまりモチベーションが上がらないものです。
例えばこの分野の大家であるJohn Chowningですら、コンピュータ音楽に取り組んでいない現代音楽の作曲家からは名前すら知られていないという状況は、やはり誰のために音楽を作るのかという根本的な問題を考えなければならないと思っていました。
現代音楽の世界では、作曲家や理論家である自分たちのコミュニティーからさえ理解されていれば他の分野の人からは理解される必要は無いといった内向きな志向性を持つ人は少なく有りません。17-8世紀のクラシック音楽がレパートリーの大半を占める演奏家から作品が理解されず、前衛的で聞き慣れない音楽であるため演奏を嫌がられたりするようなことは日常茶飯事です。
僕は21世紀の音楽を支える層は過去のように教会でも貴族でも富裕層でも、批評家でも音楽学者でもなく、ごく普通の身分や経験の人だと思っているため、僕の志向性は同業者から理解されることよりも、いかに一般の人に芸術を感じてもらえるかということを考えています。
それはAKB48や少女時代のようなエンターテイメントとは違いますが、同じような一般の客層に鑑賞してもらえればという願いがあります。
そこで、一旦自分の文脈を解体する意味で芸大の大学院で一から勉強し直していました。そうしなければとても狭い分野の話で終わってしまうからです。音楽学部ではなく美術学部の先端を選んだ理由もここにあります。
先端では以前のようなコンピューター音楽は封印していましたが、もしやったところで、それのどこが新しいの?と教授陣から酷評されると思います。
自分の経験やスキルを活かして、でも過去にやっていたこととは全く違う文脈を開拓しようと思い、様々な分野の重鎮が集まる先端に行きました。
しかし、文脈の壁を越えるということは本当に難しいことです。
先端の美術系の学生でも、そこそこ評価の高い作品でも本人と全く文脈が違うアーティストからの講評となるとかすりもしないことがあることを目の当たりにしています。
ましてや、新しい音響芸術を音楽以外の文脈の人からも理解させることはとても難しいです。
音楽家ですら作品をどのように見ていいかわからないそうです。
そういった従来の評価軸や文脈も超越して、直感的に芸術を感じてしまうようなものを作りたいと思っています。
美術にもいろいろ問題はありますが、以前の自分とは違う文脈と接するという経験が大事だったのです。
当然教授陣は自分たちがこれまで評価してきたような文脈からは外れる作品を見せられて、最後まで全くわからなかったかもしれません。
芸大先端2012にて展示している「Artificial Scape」のシステムはArduinoを使って自作したレーザーデバイスをMax/MSPで制御する仕組みになっており、光も音もその場でリアルタイムに生成され、始まりも終わりも無い作品になっています。作品の本質はメタレベルのシステムの設計であり、展示されて実空間に投影される音と光はそのインスタンスのような意味で、毎回どこか異なるバリエーションが延々と生成され続けるため、作家にとっても半分予想ができて半分予想ができないような作品です。作品自体が生命体のように有機的に新しい音と光を生み出し続けます。
僕が作り出したいものはある時期から一貫して、音や光といった目に見えたり聞こえたりするものというより、むしろ、そのようなアートを生み出す根源的なシステムやアルゴリズムなのです。
なぜアートが生まれるのか、どこがアートであるのか。
そのためのインタラクティビティーであったり、生成作品であったりします。
技術的な解説をすると、音の素材は普段自分が耳にする音をバイノーラル録音しストックたものを解体し、バリエーション化された複数のフラグメントのSPATを使い運動性を伴ってアルゴリズミックに再構築させることで4chのスピーカーから出力され、実空間にリアライズされています。
オーディオリアクティブな光の動きであったり、メタレベルで音響と結びついた模様が展開される空間的なインスタレーションであるため、その場に行かなければ体験できない作品です。
芸大の先端科は出身、経歴も年齢も多種多様で個性的なメンバーが集まっており、同じような作品は二つと無いような展示になっていると思いますが、メディア芸術祭アート部門大賞の山本氏も同級生で新作の展示を行っています。
既存のフォーマットに安住すること無く、芸術の本質を考え独自の新しい表現方法を開拓しているような学生が多い科であり、エンターテイメントのようなものとは対極にあるのかもしれませんが、芸術とは何かを考えるきっかけになるかもしれません。
トークイベントでも桂英史さん(東京藝術大学大学院映像研究科教授)、畠山直哉さん(写真家)、高山登さん(美術家)、八谷和彦さん(メディア・アーティスト)、鈴木理策さん(写真家)、イルコモンズさん(現代美術家)、大友良英さん(音楽家)、高嶺格さん(美術家、演出家)、山川冬樹さん(ホーメイ歌手、アーティスト)ら豪華なアーティスト陣が参加しますので、そちらも必見です。
■開催概要
会期:2012年1月7日〈土〉―1月15日〈日〉11:30-19:00
会場:BankART Studio NYK
〒231-0002 神奈川県横浜市中区海岸通3-9
アクセス:横浜みなとみらい線「馬車道駅」6番出口から徒歩5分
JR京浜東北線・JR根岸線「関内駅」北口から徒歩10分
入場料:無料
■オープニングパーティー:1月7日〈土〉17:00-
■「展評:明るい未来のはなし」
日時:1月9日〈月・祝〉17:00- 18:30
[出演者]
桂英史(東京藝術大学大学院映像研究科教授)
畠山直哉(写真家)
■公開シンポジウム「10 MONTH AFTER 3.11」
日時:1月15日〈日〉14:00-16:30
[出演者]
高山登(美術家)
八谷和彦(メディア・アーティスト)
鈴木理策(写真家)
イルコモンズ(現代美術家)
大友良英(音楽家)
高嶺格(美術家、演出家)
山川冬樹(ホーメイ歌手、アーティスト)
主催:東京藝術大学 先端芸術表現科 卒業・修了制作展2012実行委員会
協力:BankART1929
作品の記録映像をアップしました。