図形楽譜やグラフィカルな記譜法を使った音楽の表現を模索中です。生み出される音楽が特定の環境の環境に依存する点は作曲家にとって避けられない問題であり、むしろそれを生かす方法を考えたほうが良いと私は考えます。
max/mspにはパッチ式のGUIが得意とする創作方法があり、CmixやCSound、スーパーコライダーにはテキストベース特有の得意なアルゴリズムがあります。
今回紹介するIannixは作曲家のフリオ・エストラダが開発を進めているソフトであり、ギリシア人の作曲家Iannis Xenakisが発明したUPICを元にしたソフトです。
一般的にクセナキスと言えば確率、統計学、郡論や集合論など様々な数学を駆使し、徹底的に論理的な作曲を行う作曲家というイメージがあるでしょうが、UPICのように感覚的に操れるものを使った作曲法を開拓した作曲家でもあります。
UPICはペンとタブレットを用いて線形を入力すると、縦軸を音高、横軸を時間と見做し、線形を音響に変化させるソフトであり、線の種類を変えれば音色も変化します。
描かれたグラフに対しての回転や反転などの編集機能も充実している点に特徴があります。
クセナキス以外にも湯浅譲二、高橋悠治
らがUPICを用いた作品を発表しています。
写真のとおりグラフィカルなアプローチで時変データを生成することが可能です。
これは通常の記譜法やテキストベースのプログラミングでは見えにくい動機、オブジェクト同士の関係、類似性などを見出すことができ、建築学的な構築美を整え楽曲を構成するためには最も適したノーテーションなのではないでしょうか。
このソフトはあくまでシンボリックドメインのデータ生成のためのものであり、音響合成のエンジンなどは搭載されていないため、音楽演奏データをネットワーク経由でリアルタイムに共有するためにCNMATが開発した OSCを経由し別の音響合成ソフトウェアから音を出力する必要があります。
OSCをmidiに変換し、Finaleなどで読み込めば通常の器楽演奏のための楽曲を生成することも可能です。
ただし、思い描いたグラフィック/音楽を忠実に音に還元する意味では、無限の微分音や音色、デュレーションを得られる電子音響に軍配があがるでしょう。
–UPICを用いた作品一覧–
Mycènes Alpha (1978)… Xenakis
Saxatile (1992)… Jean-Claude Risset
llusions in Desolate Fields (1994)… Takehito Shimazu
–OSCをサポートしているソフトウェア一覧–