音楽の楽譜には長い歴史があり、演奏や録音とは違い、記号として時代とともに発展を遂げてきました。
録音された音楽は絶対的なデータであり、演奏の解釈という余地はありません。
しかし、楽譜には演奏解釈があります。
その時代時代に合わせて、楽曲の演奏は微妙に変化する余地を残しているのです。
例えばバッハの時代にはピアノはありませんでしたが、現在バッハの鍵盤楽器のための作品はチェンバロよりもピアノで演奏されることが圧倒的に多いです。
オーケストラのチューニングもA=430Hz付近の時代もあれば、442Hzで演奏される時期もあります。
作曲された作品にそこまで細かい指示があれば、それは従わなければ音楽ではなくなってしまいますが
指示を壊さない範囲では音楽は自由に演奏ができるのです。
しかし、デジタル以降の音楽はどうでしょうか。
生演奏の楽曲は別として、電子音響音楽やコンピュータ音楽、テクノ、エレクトロニカ等のデジタル音楽はデータとして完全に固定的であり、テープ音楽作品の演奏でできる解釈の余地は少ないのです。
テンポやチューニングを変えることもできませんし、スピーカーや音響機器など下流のシステムをその場に最適化するくらいしかできることがありません。
しかし、僕が提唱したいのは、音楽のデジタルデータの再生方法は準方向の1.0倍のスピードという固定観念に捕われる必要は無いのではということです。
デジタル音楽を配信しているクリエイターも、それをどのような環境でどのように再生しろとは指定している例は少ないでしょう。
PCM2chにミックスされたデジタル音楽であっても、CDであれば44100サンプルの記号が一秒間に詰まっています。これは現代の楽譜と考えることもできるのではないでしょうか。
となれば、やりたくなるのが音楽の変奏。
変奏は、英語で言うところのバリエーション。リズム、メロディー、音色、和声に変化を加えたり、さまざまな装飾を施し音楽にバリエーションを与えるものです。
変奏は原曲にオリジナリティーがある編曲、アレンジとは異なり、変奏に最大のオリジナリティーがあります。
つまり、サウンドファイルを変奏するということは原曲の再生以上のクリエイティビティーが潜んでいる可能性があるのです。
サンプリングや編曲とは全く違った音楽ファイルの未知の可能性を開拓することが狙いです。
このシリーズはいくつも作りためているものがあるので、追々リリースしていきます。
Generative Sound for OSXはMac OSXのためのソフトウェアですが、単体では何も音を発しません。
サウンドファイルをドラッグドロップすると自動的に変奏が始まります。
この作品ではサウンドファイルの響きを元に永遠に終わりが無い音響を生成します。ブライアンイーノの生成音楽やアルゴリズミックコンポジション的な着眼点ではありますが、音符の生成やシンセシスは使用せずに音響処理によって音楽が生成されていきます。
Max/MSPでgen~を使うようになってから感じるようになったのですが、音色と音楽の違いは実はあまり無いのではないかということ。
音楽と音色はどのスケールで見るかという違いなだけで、音色を作るためにアルゴリズムを組んだり、倍音一つ一つの構成方法をミクロにデザインしていくことは、超多声的な作曲みたいなものという感覚があります。
楽譜と楽器という関係のモデルを前提に音楽を捉えると記号としての音符とそれをリアライズするための音色という関係に捕われてしまうのですが
アルゴリズミックに作曲も音響合成もする場合、どこからが音符でどこからが音色という境界は存在しないので音楽を作るというのはどういうことなのか、作曲の概念を拡張することに繋がっています。
メタ的に構想されたこのプログラムでは、どのようなサウンドファイルをインプットするかで、アウトプットされる音楽は無限のバリエーションがあるため最終的な出力は作者である私本人にもわかりません。
youtubeのデモ映像を見れば、サウンドファイルと出力される音楽の関係がわかると思います。
購入はオンライン決済システムのGumroadから可能です。
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その他のM4Lプラグインは以下のサイトにまとめてあります。
デモムービーなどをご覧になればどのような音が作れるかイメージできると思います。
http://akihikomatsumoto.com/download/