音楽の情報量、密度の問題を考えています。
昨今の日本人の生活のペース、その中で扱われる情報量は非常に多いと思います。
脳が情報刺激を求めて、インターネットを通じて情報中毒のごとくさまざまな情報にアクセスしている人は少なくないでしょう。僕もそんな生活を送っている人間の1人です。
一時期は1500件ものwebサイトの最新情報、テクノロジーを毎日欠かさずチェックしていました。
常に最新で鮮度の高いものに触れていないと不安を覚えたりもしていました。
そのような生活を送っている人が増えている中、時間芸術である音楽もやはり時間に対する密度を根本から見直すことも必要かと考えています。
人々の生活のペースがあがっているのに音楽だけ何千年も同じような密度で作られ、鑑賞されていくとは限らないと思います。時間に対する感覚は過去と現在では違うはずです。
上のAke Parmerudのようなミュージックコンクレート / アクースマティックミュージックと伝統的な器楽曲とでは音色の面では情報量に差があると感じます。
特に前者は一瞬の響きの中に様々なスペクトルが複雑に含まれており、メロディーのようなものを口づさめないだけでなく、鑑賞にもかなりの集中力を要します。
これは具体音か楽音かという観点だけでなく、情報の密度が高いという観点から見ることもできるのではないでしょうか。
スペクトルの複雑な変化は電子音響音楽の特権とも言えるでしょう。
密度という点で考えた場合に興味深い例が実験によってもう一つ見えてきました。
上のサウンドはhenon mapを利用して生成した波動です。
15秒ですが目まぐるしく音は変化し、もはや声部がいくつあり、瞬間的にどのような響きが生じているのか、リズムはどうなっているのか等を追うことは情報量が多すぎて不可能でしょう。
しかし、超高速に何かが変化しているのはわかるはずです。
それが何なのかは波形を描くための数式によって副次的に生じているため、作者にとっても後から観測しなければわかりません。
そこでこのファイルを1/100倍の速度で再生してみたのが以下の映像です。
上は波形、下はスペクトルになっています。
1/100倍してようやく我々が聴く音楽という概念の範疇に収まる情報量となり、ハーモニーやメロディーに近いかたちの情報が確認できるのではないでしょうか。
ここまで情報を圧縮するのはややコンセプチュアルですが、密度、情報量は今考えるべきパラメターなのではないでしょうか。
マイケル・フィニッスィー、クセナキス、スレイヤー、渋谷慶一郎さん、evalaさん、池上高志さん、僕が好む音楽作品、サウンドアート作品というのも単位時間あたりの情報量の濃さと関係があるのかもしれません。
コンピュータ音楽―歴史・テクノロジー・アート 理論的基礎から音響心理学までを解説したコンピュータ音楽の「聖典」 本書は、1996年に刊行された「The Computer Music Tutorial」の完訳です。コンピュータ音楽の起源から今日までの様々な試みと歴史的背景、合成や信号処理などの理論的基礎と、音楽家インターフェイスやMIDIといった実際の応用、そして音楽心理学までが詳細な記述と約650点の図表で多元的に著されています。欧米では幅広く参照・引用の対象となり、デジタルオーディオの「聖典」として多くの読者を獲得しました。日本でも原著刊行以来、音楽産業従事の技術者や情報処理研究者、また実際の演奏家やアマチュア音楽家の間で、邦訳が待たれていました。 |